Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

今も現役の襤褸着について

2011-01-23 | 文化一般
クリスマスプレゼントで貰った新しいイヴォン・シュイナードの本をまだ読んでいる。パタゴニアと呼ばれるアウトドーアブランドの創始者で、我々にとっては彼の作ったクライミングギアーや韓国駐留時代に拓いたフリークライミングルートで馴染みがある。一種のビジネス新書のような感じであり、環境ビジネスの師範書でもあるからか、2005年と今頃になって執筆されて、日本語版が2007年、ドイツ語版が2010年の発売となっている。実用新書として読めばサラリーマン諸君に好まれるその程度の内容である。しかし著者自体は商売人であることをきっぱりと否定しており、フリークライマーで、サーファーで、カヤック乗りであって、鍛冶職人でありたいと宣言している。

一番印象に残ったのは、子供のときの思い出から、父親に連れられた渓流釣の場面である。流れが強く足元が滑りやすいので流れに飲まれてしまう恐怖心に包まれておろおろしていると、父親から「集中しろ」と依存心から解き放たれて、禅の如く腹が座り、自信を持って先に進めるようになったことが語られている。まさに、逃げないことが、無駄な力を抜いて水圧に自然に体が対応出来るようになったと、もっとも大切なことを示している。

著者の人生哲学は、あのヒッピー時代のそのままであり、脱西洋である極東文化への傾倒がそれに芯を与えている。起業から成功までの道筋は、当時から彼の名をつけたクライミングの道具やルートを知っている者ならば、あの当時はまだそんなことを考えていたのかと言う意外感の方が強いのだが、逆に何気なく今でも着用しているクライミングシャツが、パタゴニアと呼ばれるブランドでそれ程重要なものだとは知らなかった。正直な話、この本を昨年秋に貰うまでは殆どゴミ箱に入っていた。まさか日本にはパタゴニアのオリジナルの古着を生業とする専門店があるとは知らなかった。当時、こういたシャツを日本で購入していたのは所謂山屋さんと呼ばれるこれまた特殊な人々であったのだ。丁度ワンダーフォーゲルに代わって盛んになってきたバックパッカーとかにはあまりこうした商品は注目されていなかったように記憶する。

懸垂下降をするのにも肩絡みなどということも泣くなり必ずしも長袖でフリークライミングを愉しむ必要がなくなった今日無用の長物となっていたのである。更に、多目的なアウトドーア商品がコンセプトであり、肘などにパッチワークが入っているわけではない。それでもこの三十五年ほど前の商品が今でも使えているのは、著者が主張するように自然にやさしい限られた材料で無駄にならないように作られた商品であることを証明している。なるほど怪我をしないように壊れないように、ボタンはゴム製のものが使われていたが、流石にそれは破れてボタンは全て付け替えた。それでも冬の間はこれを今来てインドーアクライミングに通っているだけでなく日ごろのトレーニングに使っている現役なのである。しかし、こうした事情を知らなかったならば、袖もほつれていて、決して外には着て行くことが無かったであろう。大変得した思いである。

染料なども高価な建て染め染料をBASFと有害なものを使わないように交渉しているようで、その中国の山奥での綿の原料調達とともにこれほどの熱意で商品を開発しているとは思わなかった。多くはスコットランドの文化を取り入れて商品開発に当たり、また日本の市場の特殊性などを研究して、一時は草鞋までを大量輸入していたようである。

その自然愛護への取り組みも、論理的なものではなく、一部には批判されるような環境思想を企業のアイデンティティーにしているが、我々の眼からすれば、著者がビッグウォールにおいて前述のような虚無に近い状態で無心に正しいルートを探し出していくような動物的な感覚がひしひしと伝わるのである。まさに企業の成功などは論理よりも生きる勘であると言うのがここにも証明されている。



参照:
社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論
復刻・復活 イボイノシン(Alpine PITON) (NEXT DREAM 記憶と記録)
本日をもちまして、パタゴニア日本支社を「カルト企業」と表記するのは止めにします。 (月山で2時間もたない男とはつきあうな!)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする