Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

ガラスのような集中力

2014-06-25 | アウトドーア・環境
オーストリアのヴィルダーカイザーで登った。日本で有名なリードルのグラス工場のあるクフシュタインからスキーで有名なキッツビューヘル方面に入った谷である。スポーツクライミングのプログラムであったのでその心算であったが、実質的にはアルプスクライミングとなった。

ザルツブルクとティロルの中間ぐらいで、ミュンヘンから近いことから、嘗てデュルファーなどが活躍したところである。岩質は石灰なので、ドロミテと比較できるが、それほど素晴らしくは無く、アルゴイ地方のそれよりは良い。但し場所によっては、崩れかけた谷筋となっていて、途轍もなく危険な状態であった。

本来ならば山靴でも登れる難易度なのであるが、寧ろ難易度の低い場所の方が危険で、難易度の高い場所の方が安全性が高いルートとなっていた。標高差500メートルを優に超える大岩壁は、固定ロープも何も無い1924年に完登されたルートである。難易度に関わらず初心者向きではないのは、今回不慣れな女性二人を含めた我々六人には、その退却が限られた困難を経験することになる。

兎に角、前半の数ピッチはザイルが引き起こす岩雪崩危険性から退却不可能であり、上半部も僅か一つの可能性を求めて漸く退却出来たに過ぎない。私自身がリーダ-であったなら、決して我々三組のパーティーでは取り付かなかったであろう。勿論私なら無理してでも頂上を目指したことは間違いないのであり、天候からすれば退却などはありえないのである。しかし、ビバークもしくは日没の行動は避けられなかったであろう。出発から十二時間以上の行動が必要とされたに違いない。

若しそうなれば、自分自身の装備にしてもフリースが無かった分、懸垂下降の途中の待ち時間で震え上がっていたことでもあり、可也苦しい行動を迫られただろう。何はともあれ、久しぶりに厳しい登攀を迫られたと言うことは間違い無く、そのような状況においても技術的な優位さから足場を崩すことも無く登れるのは、ある意味南アルプスの北岳の頂上直下の岩壁を登ったような経験が活きているのだろう。久しぶりにそのような岩場を登ったのだった。

当時との大きな違いは、やはり大きな壁を長い距離を登る経験が身についてきていることで、自然の猛威の前にも可也平常心でいれる事で、その反面緊張感を持続させるのは容易ではなくなってきている。

それは、長い待ち時間にデジャヴに襲われるなどの状況で分るのだが、特に退却となるとどうしても集中力が散漫となりやすいのだ。落石から小学校の女先生がパニックに陥っても、直ぐに「ザイルの痛み」を点検できるような冷静さを保ち続けられる一方 ― 結局二箇所完全に被覆がやられていた ―、予想される16ピッチ目の頂上直下の最後の難関までの緊張が途切れたときの反動が大きいのである。



参照:
岩蛇のようにじっとして 2014-06-24 | アウトドーア・環境
エールグレーの香りを 2014-06-21 | 生活
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