Wein, Weib und Gesang

ワイン、女 そして歌、此れを愛しまない輩は、一生涯馬鹿者であり続ける。マルティン・ルター(1483-1546)

「二重の悲劇」のその心境

2023-10-29 | マスメディア批評
大阪ではパレスティナ支援の抗議行動が行われていた。そこで気になったのは「イスラエルボイコット」が叫ばれていたことだ。前回のガザ攻撃と虐殺時には欧州でもイスラエルボイコットの動きはあった。しかし今回はハマスが先手を打ったことで、EUはオフィシャルにはイスラエル支持を鮮明にしている。しかし実状は、特にドイツなどはユダヤ人虐殺の反省から現在があるような連邦共和国なので、そうしたオフィシャルな面には表れないものが渦巻いている。

日本では、11月に予定されていたイスラエルフィルハーモニー管弦楽団のティケット発売が中止になったとされる。前回は抗議活動もなく、それどころかいつものように会場起立でイスラエル国家が演奏されているようだ。テロ事件から楽団はシーズン開始が出来ずに活動を来月まで中止するということでツアーどころではないが、恐らく安全確保などを考えるとツアーなどは不可能となるのだろう。ドイツも自国民救出の為に国防軍が最寄の島に待機している。本日朝のラディ番組で国内の本来がパレスティナと関係のないイスラミストの動向や保安当局の手入れ状況などと共に情報が流された。反イスラエルで呼応する可能性があるからだ。

それに関連して、日経新聞がベルリンフィルのペトレンコ「軍事衝突は二重の悲劇」と題する記事を出していて、有料記事であり誰も内容を紹介していないが、想像するに的が外れているだろうから、キリル・ペトレンコの真意をここに汲んでおきたい。

今回の日本ツアーに向けた先行ネット会見の中で、幾つかの重要な点がある。一つは、「私の家庭はユダヤ教徒で、父も母もユダヤ教徒です。」と言い、もう一つ「私の気持ちはユダヤの人たち、そしてウクライナの人たちをとにかく支援したい、彼らとともにありたいと思っています。」と明白にしている事だ。

実際には母親もロシア系であると断っていて、彼自身もオーストリアとロシアの二重国籍である。そしてユダヤ教については殆ど縁が無かったとシーズン前には語っていた。そして「時間が掛かるかもしれませんが、正義が、民主主義が勝利することを信じています。」と歴史的な必然だとしている。

現在のEUの政治的姿勢からすると、この発言はサイードとの協調でイスラエル批判で名を成したイスラエル国籍のダニエル・バレンボイムとは異なり、親戚が移住していて自身もイスラエルの交響楽団と良好な関係を保っている指揮者としてはイスラエル政府に可也厳しい姿勢を示している。ロシアのウクライナ侵攻時の「背中にナイフを突き立てるような卑怯で人権に背く行い」と糾弾した徹底的なロシア批判との差異に留意して貰いたい。要するにドイツ連邦共和国における「当事者でない」公人である限りは最大限の批判的な発言である。

その真意が汲み取られていない限り、キリル・ペトレンコが語った「二重の悲劇」の意味は理解され得ない。高度な芸術に接するとはそうしたステレオタイプな理解では至らない心境に触れることでもある。



参照:
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