「よーみよ」五本印のビュルックリン・ヴォルフ醸造所で試飲して頂いた。実は私自身それほど数を買っていない。どうしてもその価格を考えると慎重になってしまうからであり、なによりも普段のワインの愉しみからすると、それほどこのリースリングは特に必要も無ければ愉しむ精神的経済的余裕がないと言ってしまう方が正しい。
しかしそれでもここの醸造所のワインを知っているという点では、彼のヒュー・ジョンソンでも私の足元にも及ぶまい。醸造所の中でも私より長い期間に及んで飲みつけている者は数が限られるであろう。
今回の狙い目は十分に数のある2007年産のグランクリュを試飲して購入して貰う事と、飲み頃と言われる2001年産のそれらを比較する事であったが、後者の玄武岩土壌のペッヒシュタインは数が少なくなっていて試飲出来なくなっていた。友人も買い占め、私も十分にご相伴で試飲させて貰ったから文句を言うまい。
それでも今年オーナーの蔵から放出された1999年度産の幾つかを試飲出来て、更に友人が支払った割り増し送料からのキャッシュバックが手に入り、僅か二ユーロでランゲンモルゲンを購入できると言う実質上の隠れリべートの恩恵を受けた。「セールスマン」として売り上げで千ユーロも達成できれば当然のご褒美であろうか?
先ずは、お奨めであり典型的なこの醸造所の切れの鋭いリースリングであるヴァッヘンハイム自慢の地所ゲリュンペルと、ルッパーツベルクのその正反対の膨らみと余韻のある土壌ホーヘブルクが比較される。既にその前の試飲やピクニックからどちらを選ぶかは、前者の切れの良さと分かってはいたが、後者のリースリングにもザウマーゲンに合わせれるような雑味の無い良さがあるのだ。しかしそうなるとどうしても他の醸造所の旨味との比較になり、フォン・バーサッーマン・ヨルダン醸造所のより廉価な早飲みの物の方に長がある。逆に言うとバッサーマンがもう一つ良いリースリングをルッパーツベルクの土壌で造れていないのが問題なのである。
第二ラウンドは、ペッヒシュタインとカルクオーフェンである。まだまだ開かない前者の真価知るのは難しいが、後者の石灰質のミネラルは感じて貰えただろう。これはその比較的手頃な価格からしてもお勧めである。
次ぎは、ルッパーツベルクのガイスベールとダイデスハイムのホーエンモルゲンの比較である。前者の若干土の土壌感のあるボディー感と後者の膨らみ感ではやはり後者に軍配が上がる。しかし、ある意味ここまで来ると殆ど好みなどの問題ではなく、お客さんに言わせると「ここのワインはあまり日本人向きではない」となるのだろう。
恐らくアルコールに匹敵するだけの充実感という事で、酸にしても他の要素にしても中身が几帳面に詰め込まれている「ドイツ臭さ」を感じ取られたようだ。それは、フォン・バーッサーマンの旨味と比べる時に、よりつき詰めた形であるに違いない。それだけに、「メードインジャーマニー」の俗に言う画竜点睛を欠くことの無い印象がここのワインにはあるのだろう。
その後、系年変化の熟成例として2003年産カルクオーフェンや2002年ライタープファードを比べる。前者は酸の弱い大味なヴィンテージを反映して尚且つ恐らく瓶が開いてから時間も経っているようで完全に逝って仕舞っていた。後者はその独特の土壌がキャラメル味を醸し出していたが、とても続けて飲めるような代物ではなかった。
その点、1999年産のランゲンモルゲンは素晴らしい。まだまだ酸味が利いていて尚且つ巧く熟成しているのである。即購入したのがこの二ユーロである。そして家で開けても明くる日もちっとも衰えないのを確認する。ただ感じたのは、恐らく十年前のシュペートレーゼ(アルコール12.5%)は今のピリュミエクリュ(アルコール13.5%)ほど収穫量を落としていなかった様子で、現在のそれの逆に熟れた甘露風味の凝縮感はない。そしてこれを書きながら比較のために開けた2007年産は、開けるや否や所謂白檀系の最高級のフランス製香水の香りが一面に放ち出すのである。こんなのは初めてである。恐るべきワインである。
さて最後に試したのが、1999年のレッヒベッヒャルであり、これは流石に古くは感じなかったが、新しいとき同様感心はしなかった。
さて、ここまで来れば、お奨めは2007年ゲリュンペル、カルクオーフェン、そしてホーヘンモルゲン、さらに2001年のそれという土壌としても多彩な選出となった。最後のそれは十分に高価であり、自らが試していないので気にはなったが十分に価値があったと言うことで羨ましく思っている。
そうした腹いせもあり、今晩はランゲンモルゲンの醍醐味を味わっているのだ。古い旧家の床の間のある部屋や箪笥階段の横に居座って昔話を聞いているような落ち着いた気持ちになるこのリースリングは本当に素晴らしい。決して、ホーヘンモルゲンのようなグラマラスな体躯ではないが、それでいて結構そこかしこの美しい曲線に魅了される。一人でちびちびと味わいたいリースリングなのである。恐らく、この醸造所一旨味のあるワインに違いない。
参照:
試飲百景我慢し切れない美味さ? 2009-03-03 | 試飲百景
放言、よー、観てみよー 2009-01-05 | ワイン