■ 成長率がゼロ近傍の日本ではインフレは起こらない? ■
財務官僚と高市氏の論争で、最大の論点は「日本でインフレが発生するかどうか」という点。
政治家は短期的視野で「人気取り」の為にバラマキ財政を継続させたいので、「政府と日銀は統一政府なので、国債はいくらでも発行できる」「ゼロ金利下では国債は永久的に借り換えし続けられる」と主張します。これは通貨発行と国債発行の制度的には正しい。
しかし、前提条件として「国債金利がゼロ近傍(マイナスを含む)である事」が不可欠です。現状の日本ではインフレ率はゼロ近傍で安定しているたで、国債金利に上層圧力は掛かっていませんでした。
しかし、天然ガスの高騰が原油価格にも影響を与え、世界的にインフレ圧力が高まっている事より、欧米の市場はインフレを予測し始め、米国の金利も上昇し始めています。
日本は原油や天然ガスをほぼ輸入に頼っているので、これらの値上がりは、物価に影響を与えます。エネルギーコストのみならず、原油を多くの製品の原料となるので、コストプッシュインフレが起り易くなります。
コロナの生産や物流の低下で既に食品などでは多くの値上げが実施されていますが、原油価格の上昇は、もっと広範な値上がりを促します。
コロナで需要は低迷してる中でも、しっかりインフレは発生しています。
■ 通貨安によるインフレ懸念 ■
資源価格の上昇の他にも、日本でインフレが発生する要因があります。それが「円安」です。
上はドル/円の長期チャートですが、円安が進行している事が分かります。敢えて長期チャートを示したのは、日銀が異次元緩和を打ち出した2014年後半から円安が進行して1ドル125円まで円安が進みました。1ドル125円が当時の日銀の介入ポイントだった。
異次元緩和で日本のインフレ率が上昇し始めましたが、その主要因は実は原油価格の上昇だった。リーマンショック後に狂った様に発行されたマネーは行き場を求めて原油市場に流入し、不景気にも関わらず原油価格は100ドル/バレルを突破していた。
原油価格の上昇と円安の進行が重なり、日本国内でもインフレ率が上昇し始めると、日銀は1ドル125円を境に介入を示唆して円安にブレーキを掛けた。同時期、財務省は消費税率を引き上げて消費に水を差します。(インフレ率を抑制)
結果的にはシェールオイルの増産などの影響で原油価格は40ドル代まで急落して、日本のインフレ率の上昇は収束に向かいました。
現在の状況は2014年末からの状況に似ています。ただ円安の原因が当時と異なる点に注意が必要です。2014年当時は異次元緩和で円の供給量が増えたので、為替市場で円安が進行した。
しかし、今回の円安の原因は米国の金利上昇です。
上のグラフは米国の10年債金利の推移ですが、上昇している事がはっきり分かります。米国の長期金利に上昇圧力を掛けているのが、天然ガスや原油の値上がりです。
今回の価格高騰の遠因は、温暖化対策で生産設備への投資が低調になった事が挙げられています。シェールガスのリグの稼働率も低い。原油価格の上昇がこのまま続くのか、それとも下落に転じるのかは、原油の生産量に依ると思われます。
以前はアメリカのシェール企業が原油価格の上昇の乗じて無節操な増産や新規リグの開発を行い、原油価格は下落に転じた。しかし、彼らもこの経験から、原油の増産が利益に繋がらない事を学んでいる。むしろ、原油や天然ガス価格が高い方が、生産価格の高いシェール企業には有利だからです。
この様な事情を鑑みて、市場は今回の原油価格の上昇は2015年当時とは異なり、ある程度続くと予測しています。これは即ちインフレが進行すると市場が読んでいる。
市場のインフレ予測は長期金利に上昇圧力を加えるので、米国債金利(10年債)が上昇している。FRBはインフレ率のこれ以上の上昇を望みませんから、緩和縮小を匂わせて市場を落ち着かせ様としていますが、緩和縮小を実行すれば、金融市場は過剰に反応して大幅に値を下げるます。バーナンキショックの規模の大きなヤツが必ず起こる。
こうして、米国の金利上昇が進むと、金利の低い日本国内から資金が米国に流出します。この際の円売りドル買いが行われるので、為替市場で円安が進行します。さらに市場参加者はこの様な潮目の変化を見逃しませんから、相場はドルの実需以上に円安に振れます。
原油高によるコストプシュインフレと、円安によるコストプッシュインフレが同時に進行すれば、需要が低迷した日本国内でもインフレ率は上層します。
「インフレとコロナで生活が苦しくなった → バラマキで国民生活を楽にしよう」となった場合、一時的な消費の向上は、インフレにさらに拍車を掛けます。岸田政権は大規模な補正予算による景気刺激策を選挙の目玉に据えていますが、不景気下のインフレ(スタグフレーション)で、はたして財政拡大がインフレ率にどう影響するのか、興味がある所です。
■ 日本国内よりもインフレが進行し易いアメリカ ■
アメリカ人は消費性向が強く、これからクリスマスシーズンに掛けて消費が拡大し易い。又、アメリカの小売りは日本程、価格硬直性が無いので、需要が高まれば物価は上がり易い。
日本国内では冒頭の様な「インフレと財政の継続性」の議論が一部で活発化していますが、そんな議論がされてうる内には、アメリカのインフレ率はFRBのテーパリング開始を大きく後押しします。
ここで、FRBが上手に市場をコントロール出来なければ、バーナンキショック以上の下落が起ります。或いは、それがコロナバブルを崩壊させる可能性も有る。
今や、世界中の市場関係者がFRBの挙動にしか興味が無い状況において、インフレ率の上昇に追い詰められたFRBはどういう政策を打ち出すのか・・・・。
高市大臣の様に日本国内にしか目が向かない人達は、3周遅れで世界の状況が全く見えていません。尤も、彼らは「選挙に勝つ事」が至上命題なので、本気で財政の継続性など考える訳がありません。いかに次の選挙を勝つかしか頭に無いのですから。