■ 政治とは何か? ■
ところで近代国民国家における政治や選挙とは何かちと考えた場合、最もシンプルな回答は、「税金を納めた人と、税金を使う人の利害の調整」と答えるのが一番でしょう。
民主的な議会政治はイギリスの市民革命後に発足しています。当時の有権者は貴族と資本家。貴族や王族は税金を資本家から集め、それを浪費していた。これに憤りを覚えた資本家達が、議会の設立を求め、自分達の収めた税金を、自分達の収益拡大の為のインフラ投資などに使う様に求めた。「市民=資本家」であり、そこら辺のパンピーは当時の市民では無かった。
イギリスでは上院(貴族院)と下院(庶民院)とに議会が分かれていますが、当初は貴族院の力が強かった。しかし、次第に立法権の優先を庶民院に奪われ、最高裁判としての機能も失い、貴族院は形骸化して行きます。主権が王族貴族から市民(資本家)に移って行ったのです。(尤も貴族の多くは資本家でも有りますが)
現在でも「税金を納めた人と、税金を使う人の利害の調整」は議会の役割として生きています。世界の多くの国では「税金を多く収めた人=小さな政府支持」、「税金を多く使いたい人=大きな政府支持」として政治の対立軸が明確です。
アメリカでは「共和党=小さな政府」と「民主党=大きな政府」となります。「共和党=保守主義」、「民主党=リベラル」と捉える場合も有りますが、これは本質を見誤ります。「リベラル=平等とは、金をオレにもっと分けろ」とヤンワリ要求しているに過ぎません。
■ 自民党はリベラル政党 ■
今回の衆議院選挙で、日本のリベラル政党を自負する立憲民主党が大きく議席を減らしました。これは当然の事で、日本では自民党がリベラル政党なので、それ以上のリベラルは「極左」となってしまいます。ある意味、共産党と共闘するのは当たり前。
本質は「税金を納める人」と「税金を使う人」の対立ですから、政党支持者がどちらかを見れば、その政党の立ち位置が分かります。自民党の支持者の多くは、税金を払わないけれでも補助金は沢山もらいたい農家や個人事業主です。(別にディスっている訳ではありません)
だから自民党は一貫して「バラマキ」を得意とし、「バラマキ」の得意な議員が党の要職に就く。
■ サラリーマンがリベラルを支持するネジレ ■
日本で一番税金を納めているのはサラリーマンでしょう。本来ならば彼らは「小さな政府」を支持して税金を少なくする政策を支持するべきです。
しかし、不思議な事に、日本の多くのサラリーマンが戦後一貫してリベラル政党を支持する傾向が強かった。これは「サラリーマン=労働者」という刷り込みが働いている。労働組合の存在がそれを補完しています。
しかし、日本の企業内労働組合は経営者に協力的で、決して強くは対立していません。日本の企業は労働者も含めて「仲間」なので、実は日本の労働者は資本家(経営者)に理解があります。給料が多少安くても、会社の為に働き、転職はしません。出来ないというのが現実ですが、これは会社が「家制度」に近いので、中途採用の余所者を嫌う性質が原因しています。
結果的に、日本のサラリーマンは自民党政治家の応援に駆り出されたりしますが、投票はリベラル政党にする。
■ リベラル政党の政策は「小さな政府」という矛盾 ■
現在のリベラル政党は「労働者による社会主義革命」という看板を下ろし、「市民政党」という仮面を被り直しています。彼らの武器は「減税」と「バラマキ」です。しかし、かつての民主党政権を見るまでも無く、「減税」と「バラマキ」は両立しません。そこで、民主党は「裏の予算」に手を突っ込もうとして官僚の抵抗に合い失敗しました。
当時の民主党は「財政の無駄を無くす」という物ですから、「小さな政府」そのもので、「沢山税金を集めてバラマキを拡大する」と主張する自民党と立場が逆転しています。
■ 実は自民党内で「小さな政府」と「大きな政府」がバランスしている ■
自民党は右派と中道と左派に分かれています。右派は旧田中派で「バラマキ=大きな政府」
路線。左派は現在の細田派など「自由競争支持者」、中道は旧宏池会系で、官僚的バランス感覚で両者の間を取り持っています。
この様に自民党内で「大きな政府」と「小さな政府」がバランスしており、その時々の情勢によって政策が入れ替わり政策に反映されます。
例えば細田派(清和会)はアメリカの意向を反映して「自由競争」を推進しているかに見えますが、実は支持者の多くは「税金を払わずにバラマキを要求する人達」なんので、国債発行にも柔軟で適度なバラマキを続けています。
自民党の中で「大きな政府」と「小さな政府」のバランスが取れているので、野党はやる事がありません。ですから実現不可能な政策を掲げたり、自民党政治家の不正を追及する事でしか票を得る事が出来ません。日本においては野党は不要になりつつあります。
■ 自民党を分割すれば選挙は楽しくなるが、政策に硬直性が生まれる ■
実際の話として自民党を3つに分割すれば、有権者は投票し易くなります。その時々の情勢によって「大きな政府」と「小さな政府」を選択出来る。
しかし、そうなると二大政党制の悪い面も露出します。アメリカでは、共和党のトランプ政権から民主党のバイデン政権に変わった事で、様々な政策に変化が生じており、その振れ幅も大きい。要は、内政政策に一貫性が無いのです。「お前たちは十分得をしたから、今度はオレ達の番ね」といった「振れ幅の中でのバランス」を取っている。
サスガに外交政策がブレブレなのは問題なので、共和党議員と民主党議員が民間のシンクタンクの外交問題評議会(CFR)に超党派で集い、政府とは別に外交政策を決めています。
日本の場合は極端な対立は好まないので、自民党内の各派が阿吽の呼吸でバランスを取って、政策の一貫性を確保しているとも言えます。法案は自民党内の各部会で討議され、意見調整された後に閣議で国会提出が決定される。
■ 既に国民は選挙よりも自民党総裁選を楽しんでいる ■
今回の衆議院選挙が投票率が低かったのですが、これは当然で、国民の多くは隠れ自民党支持者です。だから衆議院選挙よりも、自民党総裁選の方に興味がある。
今回、立憲民主党が負けた理由・・・
1)自民党が自己完結している
2)特に今回、自民党にお灸を据える様なスキャンダルが無かった
3)何故かコロナでも経済が低位安定している
この3点から自民党の批判票が野党に流れなかった事が原因でしょう。そして批判票は「棄権」という形で表明された。だから投票率が低いのです。