ウディ・アレンの新作はとても甘く優しいファンタジー。才人なのでこんな映画もちゃんと作れてしまう。霊能力者の女性と皮肉屋の堅物マジシャン(謎の中国人という昔ながらの設定でステージに立つ)が、出会い、恋に落ちる。
彼は、霊能力なんて絶対インチキだから、その化けの皮を剥いでやろうとするのだが、彼女は実に的確にその能力を発揮して奇跡のように、彼の心の中を当てていく。人の心が見えるなんて、信じられないようなことで、彼でなくても誰もがインチキだと、思うはず。だけど、どんどん言い当てられたら、信じないではいられなくなる。
避暑地でのできごと。若くて綺麗な女性(エマ・ストーン)と、中年のハンサムな男(コリン・ファース)。そんなクラシックなお膳立て。でも、少し普通じゃない。(だって、これはウディ・アレンですから) 男は鈍感で、それは生真面目ゆえ。女は金持ちのボンボンに好かれていて、一攫千金の玉の輿なのだけど、心が揺れる。そんなすれ違うふたりの恋物語がロマンチックに描かれる。
実際はどうなの、と思わせて、ラストで常識的なところに落ち着くのは、少し肩すかしだけど、常識の範囲内でお話をまとめるのは、仕方ないか、とも思う。だけど、やはり、少しがっかり。もっと不思議なお話にしても、よかったのではないか、と思う。
ただ、いつまでも彼が彼女を好きにならないのが、おもしろい。さすがに、彼女があきらめたときに気づく、というのも、おかしい。そういう心のすれ違いと、魔法の力をうまく絡めると、気持ちのいいファンタジーになるのだけど、アレンはそういうところに落ち着かせない。もっと観客を喜ばせるような工夫をしてもいいのに、あまりサービスしない。じゃぁ、こんなタイプの映画にしなければいいのに、と思う。これではなんだか中途半端なのだ。妥協するにしても、それならそれで徹底してサービス精神旺盛な映画に徹して欲しかった気がする。ということで、今回はいまいち。