まるで安い「ヒーローもの」の映画のようなタイトルだが、見終えたときにはこのタイトルがぴったりの映画だと納得する。映画を見て久々に泣いた。これはスーパースター、エルトン・ジョンの伝記映画である。本人がプロデュースしているから、自分に都合のいいような映画になるというよくあるパターンを踏む可能性も無きにしも非ずだったことだろう。だがこれはそんなつまらない映画ではない。素晴らしい傑作だ。昨年の大ヒット作『ボヘミアン・ラブソディ』を最終的にノンクレジットで監督したデクスター・フレッチャーが監督した渾身の力作。その完成度の高さは、もちろんボヘミアンの比ではない。だいたい僕はエルトン・ジョンの信者ではない。というか、彼のことをよく知らない。そんな僕だからこそ、純粋にこの映画にのめり込めたのかもしれない。孤独な少年の心の叫びが描かれる。
両親の愛に飢えた5歳の少年がピアノを通して生きていく術を見出し、信頼できる有人に支えられて、自己実現していく。しかし、心の弱さは克服されず、やがてドラッグに溺れて再び自分を見失う。そんな彼の少年時代から今までを描くミュージカル映画だ。そうなのだ。これはなんとミュージカルである。そこがかなり重要な部分だ。こんなにも奇異なエルトンの生きざまを描くにはそういうユーモアが必要だった。
彼はただ両親のハグが欲しかっただけ。そんな彼が、満たされない想いを抱きながら必死に生きていく姿に心打たれた。特に、ミュージシャンとして成功するまでを描く前半部分が素晴らしい。しかし、その後の、道化としてしか生きられない日々を描く後半部分も、痛ましいけどそれが本当のことだから余計に胸に沁みてくる。こんなふうにしか生きられなかった天才の苦悩、それをどう乗り越えていくか。
たった2時間のミュージカル仕立てのドラマは彼の生涯を描くスーパースターの成功譚ではなく、彼が自分の弱さと向き合いそれをどう克服したのかを描く。これは見終えたときに、勇気の出る映画だ。みんなに勧める。誰が見ても面白いはず。