時代設定は明確にならない。だが、明らかに今ではない。きっと監督の少年時代ではないか、とすぐに推測がつくけど、それが何年の話なのかは僕にはわからない。描かれる風景や、風俗から、20年前くらいではないか、と思いながら見る。でも、シンガポールのことなんか、想像すらつかないのが実情だ。タマゴっちだとか、古いパソコンとか、それだけで、わかる人には、すぐにわかるのだろう。でも、僕は気にしない。ただ、この描かれる世界を見つめる。感傷的な映画ではない。作者の回想をモデルにしても、そこには甘えはない。そこがいい。
10歳の少年が主人公だ。両親に心を開かない。誰ともうまく付き合えない。反抗的で、学校では問題ばかり起こしている。困り果てた母親がメイドを雇う。彼の世話や家の雑事を任す。28歳のフィリピーナだ。フィリピンから単身やってきて、住み込みで働く。故郷の島には1歳の子供と、夫とがいる。自分の稼ぎを送金して、彼らの生活が成り立つ。
お話はよくあるパターンだ。反抗的な少年に手を焼くが、徐々に彼が彼女にだけは心を開くようになる、というパターン。想像通り。でも、よくあるような安易な映画ではない。簡単ではないし、事情も複雑だ。両親の心情や状況も絡めて、4人のそれぞれの問題が丁寧に描かれていく。きつい話だ。でも、暖かい。現実は厳しいし、生きていれば難しい問題ばかりが起きる。しかも、それはいきなり、だったりする。父親の解雇、学校からの放校、母親が新興宗教のセミナーに嵌ったり。それって、どこにでもあることなのかもしれないし、客観的に見れば、きっと些細なことかもしれない。でも、そのひとつひとつは、家族にとってとんでもないことばかりだ。悲惨である。マンションの住人が飛び降り自殺する。最初は主人公である少年の父親が死んだのか、と思った。そこまで、ドラマチックで深刻なことは描かれない。波風だらけだけど、平穏な少年時代。
エドワード・ヤンの『ヤンヤン 夏の想い出』のような大作ではないけど、少年時代の追憶を、等身大に綴って見せた小佳作だ。こういう映画が高く評価されるのは、うれしいような、でも何だか、面映ゆいような。(自分のことではないのに)
これは、人にはあまり知られてないけど、僕だけが知っている、というタイプの映画だ。(まぁ、傲慢な言い方!)このかわいげのない顔をした主人公の少年がとてもいい。彼とメイドの女性との交流をウエットになることなく、かなりドライなタッチで描いている。参った。