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映画・演劇のレビュー

『DAYS 文化部青春協奏曲』

2023-01-22 15:41:26 | 演劇

これは昨年の12月末に公演を予定していた作品だ。延期になり仕切り直しての公演である。それにしても早い。制作の対応の手際よさのなせる業だろうが、素晴らしい。若い役者たちが10人舞台を彩る。10人がほぼ出ずっぱりで1時間40分駆け抜ける。一応会話劇である。動きも少ない。左右対称雛壇状に並んで小さな会議室での作戦会議が描かれる。毎年学園祭の後で催される後夜祭の目玉イベント、体育会と文化会がぶつかり合うパフォーマンス対決の内容を吟味する。この対決に15年連続で文化部は負けている。まだ、今年の文化祭が終わったところなのにさっそくの招集には、来年こそは勝ちたいという熱い想いが込められる。綿密に企画会議を立ち上げる代表は生徒会副会長と書記のふたり。そこに7人の文化部次期部長たちが召集される。なんと、そこにもう1名帰宅部の部長?なんていう少女も混ざり8名に。彼女たちは実は最初はあまり乗り気ではない。でも、生徒会の2人の熱意に押されて参戦することになる。

これはたわいもない青春コメデイだ。だけどこの狭い空間(シアターOM)で10人の女の子が身を寄せ合い、語り合う姿はなんだか楽しい。劇場の狭さが生きる。この空間でこの人数でこの内容ということも仕掛けになる。終盤ではお約束だろうがちゃんとダンスシ-ンも用意されている。歌って踊って若さが弾ける、なんていう定番だ。だがそんな展開も心地よい。

主人公の生徒会副会長を演じるのは昨年の『君といつまでも』が素晴らしかった河野奈々帆だ。だが、彼女を中心にして作られるドラマではなく、10人がほぼ均等に役割を担うアンサンブルだ。そしてそれはリアルな青春ドラマではなく、ただのコメディでもない。根幹にあるのはある種の象徴的なお話。高校時代は楽しい。そんな気分が伝わればいい。

彼女たちの一生懸命な姿が眩しい。それだけでこの芝居は成立する。それだけを見せればいい。そのために作、演出の熊田健大朗は奉仕する。だがそれは彼女たちに媚びることではない。そうすることでこのたわいもないお話に意味を持たせることになるのだ。「高校の文化祭」という高校生たちにとっては最高の時間、その深い意味をここに再現する。それはどうでもいいようなことに最大限の情熱を注ぎこみ熱くなること。自分たちの青春に酔うことができる特別な時間だ。その疑似体験をここに用意する。無意味すれすれのことに最大限の意味を持たせること。それが高校の文化祭の意義だろう。今考えるとバカバカしいことかもしれない。でもあの頃は本気だった。そして今もあの輝きを勲章にできる、そんなものがそこにはある。本番直前まで遅くまで残り準備した日々を誰もが忘れないだろう。この芝居は10人の女の子たちを通してそんな時間を描いている。サポートに回ったスタッフの大人たちも(もちろん観客の僕らも)ここに自分たちの記憶を重ねて、少女たちを暖かく見守る、これはそんな芝居だ。


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