2時間10分の大作だ。ことさら強調するように「これはフィクションです」と最初に断り書きのように述べるのが怪しい。フィクションではないよ、と勘繰りたくなる。というか、勘繰らせる。チラシにも当日パンフにも書かれてある中古レコード店に行ったらマッサージ店になっていたという話は作、演出の筒井潤の体験談じゃないか、と思う。そこを入り口にしたフィクションなのだろうが、なんだかいろんなところがリアルで、実話をモデルにしているノンフィクションっぽい。
明かりはちゃんとつかない薄暗い中で出演者たちがぼそぼそとなんだか呟く。会話ではなく独り言でもなくなんだかよくわからない台詞が紡がれていく。この意味を考える。けど、いつまでたっても明かりはそのまま。薄暗いままなのだ。そしてお話は始まらない。この物静かな芝居もそのまま。オープニングと思われたものがいつまでも続く。これはこんな芝居なのだと諦める。明確なストーリーはないのだ、と。だんだん眠くなる。いやん、気がついたら、一瞬意識を失っていた。でも、大丈夫。ちゃんと見ていてもそこにはストーリーはない。イメージシーンの連鎖というわけでもない。じゃぁ、何?
一応主人公はいる。まじめな青年ユウジ。彼がマッサージ店に入り施術を行ってもらうというのが基本のお話。だが先にも書いたようにお話らしいお話はない。施術師との会話もコミュニケーションになってない。施術はマッサージでもあり、性的な対応でもある。客に事務的に接する。テンション低い。このふたりにレコード店の店員だったジャニス、徘徊するよくわからない女アイナ、ユウジの父親も登場する。
幕間として登場する発明家とジャニスとのエピソードになるとちゃんと照明が入るし、発明家のハイテンションにたぶん寝ていた客も起きるはず。(ジャニスは相変わらず低いテンションで投げやりに対応するけど。)ここは楽しい。発明家を演じる小野毅がやかましいくらいに激しいテンションで他のキャストとはまるで相いれないで異彩を放つ。この場違いな感じが凄い。そこに助手として作、演出の筒井潤が従い登場する。筒井はそこに存在するだけで異彩を放つ。ほとんど何もしないのに。幕間の後は、再び死んだような空気が漂うもとのタッチに戻る。そんなふうにして2時間10分。正直言うとちゃんと見ていたはずなのになんだかよくわからないし、少し居眠りもしたし、でも、この不思議な感触は面白い。
本編終了後に突然始まるラストのレビューシーンの不気味さ。筒井のどろんとした笑顔。役者たちのやる気のなさそうな動き、元気のなさはここに至っても持続中。さらには終演後のアフタートークでまで、それは持続する。筒井さんとYPAMの新井知行氏による対話の間の長さ。ふたりとも黙ってしばらくは無音の場面も。でもこの30分に及ぶアフタートークもまた実に面白い。これはなんと解説付きトータル2時間40分に及ぶ大作なのだ。