2年前に見て感心した作品の再演。作、演出の田辺剛さんはレパートリー・シアターとして今後もいろんなところで、何度でも上演していく予定らしい。自信作を、新作と並行して同じように繰り返し上演していくって、凄い。平田オリザはずっとそうやっているけど、ふつうなかなかできることではない。しかも、台本をアレンジするのではなく、そのまま変えずに上演する。演出は少し変えても、本は変えないみたいなのだ。それって凄い自信だし、素敵なことだ。自分の大好きな作品を大事にして、いろんなところの、たくさんの観客に届ける。
今回、キャストは3代目となるらしい。確かに前回とは雰囲気が少し変わり、そこも新鮮だった。お話自体はとても単純で分かりやすい話で、一度見ただけだけど、もう十分知り尽くしている。だけど、それでも緊張するし、飽きることなくラストまで一気に見せられる。それはこれが「お話を見せる」のではなく、ここで描かれる「この世界を見せる」からだ。そこが心地よく、そして切ない。
田んぼの真ん中にぽつんとあるアパートの4階の1DKの部屋。そこで違法植物を育てる女子大生。誰とも接することなく、息を潜めるようにしてひとりここで暮らす。家になかに友だちを入れることはできないし、友だちもいない。そんな彼女を見守っていた3階の老人。(でも、この老人はお話の冒頭以前に死んでいるから、登場しない)これは今はもういないこの老人と彼女のお話である。
そんな彼女のもとにたったひとりだけの友だちが訪れる。この友人が彼女をこの植物栽培に導いた。この彼女の友人と、遺品整理に訪れた老人の孫だけが、彼女のもとにやってくる。秘密を抱えたふたりの女の子たちと、同じように祖父の秘密を抱えた男によるほんの少しだけの交流が今までの生活を終わりにする。
余白だらけのお話だ。だけどそれを想像で補うことがなんだかこんなにも心地よい。彼女はなぜこんな危険なことを始めたのか。それは生活の苦しさだけではない。そして彼女たちの孤独と、老人の孤独には一切接点はない。閉ざされた空間でたったひとり暮らす日々の先に何があったのか。最後に始まりの光景が描かれる。ここで始まる未来に何を感じたか、ここで終わった過去の先に何が待ち受けるのか。この繊細な肌触りのざわざわするお芝居は、見ながらいろんなことを感じさせる。