デンマークの映画だ。(スウェーデン・フィランドとの合作だけど)「アクションもの」で、「復讐もの」というよくあるパターンだ。なんだかとても地味そうな映画。わざわざ劇場で公開するほどのものなのか、とも思う。でも、本国ではその年のナンバーワン・大ヒットとなった作品らしい。なんとなく、心惹かれて、しかも、時間がちょうど合ったので、たまたま急遽思いつきで見ることにした。
不思議な映画だ。最初はあたりだな、と思った。ただのアクションではない。いきなりの列車事故のシーンのインパクトは凄まじい。こんな展開は想像もしなかっただけに。何が起こるのかまるで見えないまま、映画はどんどん始まっていて、そこでお話だけではなく、実際スクリーンでドカンと爆発する。(あの迫力の事故のシーンです!)
そして、主人公が帰ってくる。この強すぎる軍人(マッツ・ミケルセンが狂暴!)を見ていると、これはきっと昨年の知られざる傑作『 Mr.ノーバディ』のような無茶苦茶な映画になるなとワクワクした。だけど、なのに、すぐにそうではないことに気づく。中盤からはもたもたしてなんだかよくわからない映画になるのだ。スカッとするアクションだと思ったのに、いつまでたってもそうはならないし、なんかよくわからないコメディタッチにもなるし、少し退屈するし、眠くなる。もしかしたら、これははずれか、と思い始める。失敗したな、と諦めムードになる。
だけど、終盤になり、いきなり緊張が高まる。自分たちの間違いに気づき、では、この怒りをどこに持っていけばいいのかと戸惑う。ますます映画の着地点が見えなくなる。そして、いきなり奴らがやってくる。ここからは忘れていたアクション映画の定番だ。そしてまた、思いもしない残酷さで、震えあがる。そこからラストまで、怒濤の展開はハリウッドのアクション映画のようだ。たった7人で、攻めてきた極悪人たちと戦い勝つというただのハッピーエンドへと向かうのだが、スカッと爽快ではない。どちらかというとほのぼのなのだけど、なんだかバランスがおかしい。これは一体どういう映画なのか、と思わされる。しかも、あのエンディングである。
冒頭のクリスマスプレゼントを買いに行くシーンと対応する。青の自転車が欲しいけど、在庫がなく、取り寄せるのなら、遅くなるし、買うには今じゃなくてはちゃんと手に入るかわからない、とかいうエピソードと呼応するラストは、クリスマスの日の夜、彼女のお家の玄関にちゃんと青い自転車が届くシーンだ。少女は雪の中、自転車を走らせる。誰もいない教会の前で自転車に乗り、ぐるぐる回るシーンにエンドクレジットが延々と流れる。全く映画の主人公たちとはかかわらないこのエピソードが映画全体を見事に伝える。
偶然、事故に遭い、妻を亡くした男。電車の中でたまたま彼女に席を譲ったために、生き残った男。そのふたりが一緒に事故を起こした犯人に復讐する話。この映画は簡単に書くとそういうことになるのだけど、実はそんな単純なものではない。そんな単純なはずのお話から、どこでどうなったらこうなるのかというくらいに屈折させて、思いもしないお話につなげていき、でも、最後にはちゃんと戻ってくる。これは妻であり母でもある最愛の人を失くした父と娘がたどる人生の不思議を描いたヒューマンドラマだ、なんていう紹介すら可能な映画なのである。どう考えたってそれはないやろ、と思うのだけど、そうなのだ。しかも人生とか運命とかについての寓話にすらなっている。何が何だかよくわからないけど、気づいたらてんこ盛り。これはそんなふうで、凄い映画なのだ。