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映画・演劇のレビュー

浪速グランドロマン『つげ姉のあひゞき』

2014-03-18 21:45:37 | 演劇
とある役所の会議室が舞台となる。テーブルと4脚の椅子だけを舞台装置にした簡単なお芝居。(壁には、小さなホワイトボードもあるけど。)そんな殺風景な空間で殺伐とした話し合いがなされる。とある民間の文化団体への市からの助成金のカットを告げるための会合だ。その嫌な仕事を、課長はつげ姉に押しつける。

登場人物は5人のみ。職場での人間関係やいざこざを、ピンポイントで見せる。主人公の置かれた状況をリアルタイムの今から始めて、彼女の想いの核心へと至る構成はスタンダードだが、悪くはない。出てくる人たちも悪い人はいない。でも、今はぎくしゃくしている。かつて彼女が応援していた人たちに、立場が変わったため補助の打ち切りを告げるのだ。お互いにいい気分になんかなるはずもない。

そこに彼女の10年前のほのかな恋愛まで絡んで来る。今の彼女の微妙な立場がどこから生じたのかも見えてきて、お話は今ある困難という表面の事象だけではないことがわかる。この10年間、何を想い、何に耐えて、どう生きてきたのか。そんな彼女のすべてが明るみに出る、なんていう大げさな芝居ではない。あくまでも、最後までさりげない。

生きていればみんなそれぞれ嫌なことやら、嬉しいことがある。仕事が生きがいであればいいけど、なかなかそうはいかない。若い頃の情熱がいつのまにか、消えてしまうこともある。狭い会議室で、少しでもみんなが気持よく過ごせるようにと、つげ姉は思う。自分をだまして、なんとか、折り合いをつけて、生きている。そんな彼女を否定も肯定もしない。ただ、あるがままの彼女を見せようとする。仕事なのだから、個人的な感情に左右されるわけにはいかない。でも、人間はそんな風に理想通りには振る舞えない。しかも、周囲の勝手な憶測や横槍から、酷い目にあわされたのだから、本当は、他人なんか信じられない。

つげ姉をつげともこ改め、柘植智子が演じる。全体的に彼女の一人芝居だ。特にラスト直前の長い一人芝居のシーンは見どころ。押さえていたものが噴き出す瞬間を表情だけで見せる。その直後の東風ふみとのシーンも含めて、感情的になった自分を見られた恥ずかしさと、そこから日常へとちゃんと戻ってくる。瞬時でその落差を拭い去り、自然に見せる。そこは大人だ。しかも、ここは職場だ。そういう微妙な部分も含めて、なかなかいい。

演出の浦部善行さんは、今回、いつもとは違って、とてもさりげない。もちろん、これはそういう芝居なのだから、当然のことだが、テンションの高い芝居を排除して、日常のスケッチに徹する演出は潔い。75分の上演時間も適当。この内容に、60分では短いし、90分は長い。いろんな意味でバランスがいい小品。


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