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政界を描くコメディ映画なんていう大胆な試みを平気でやってしまうのは三谷幸喜だからこそ。でもこれをシリアスにやられたりしたら、これはもう無理。この題材で先日の『新聞記者』のような映画は日本では作れないし、作ったとしても、受け入れられないだろう。
その点、この映画の適度なゆるさは素晴らしい。それはないわ、と思いつつも、それだからこそ、楽しめるし、そこから本当の政治の在り方が見えてくる。これはヒューマン映画ではなく、あくまでもコメディなのだ。だからこそ語れる本音もある。そこがこの映画の魅力。
支持率最低の現職総理が記憶喪失になったことから起きるドタバタ騒動。最悪総理が、いいひとに変身。さあどうなる?
ウェルメイドな群像劇ではある。ただ最初はかなりあざといなと思う。少し嘘くさくてついていけない。だけど、だんだんそれにも慣れてきて、後半はそのあざとさがなぜか心地よくなるのだ。作者の術中にちゃんと嵌まる。これは政界を描くにもかかわらずハートウォーミングなのだ。夢物語だけど、こんなふうになればいい、という願望が描かれる。豪華キャストを裁く手つきは慣れたもの。ファンタジーだけど、絵空事ではなく、適度にリアル。そういう匙加減が絶妙なのである。中井貴一のすっとぼけたところも実にうまい。もちろん、大した映画ではないけど、そういうところも、この映画の魅力なのだ。超大作ではなく、でも豪華で贅沢。そういうバランス感覚が見事なのだ。