
この軽さがなんとも心地よい。コミカルな部分もちゃんとあるけど、まずこれは静かな芝居で、でも、彼らのやりとりを見ているだけでなんだか愛おしい気分になる。葬儀場を舞台にしたお話。父親の死。家族葬なのだけど、いろんなことがあって気づけば、凄い数の会葬者がやってきて、生前の彼がどれだけみんなから慕われていたのかが、忍ばれる。ということが、さりげなくラストで提示される。
登場人物はまず、喪主である長女と、彼女の息子、妹という家族。葬儀社の人たち、謎の女に葬儀ディレクター、坊さん。彼らが入り乱れるところになんと死者である3人までがやってくる。でもこれはドタバタではない。彼らによる会話劇で、登場人物である彼らも観客である僕たちも、なんだか予想もしなかった意外な展開にあたふたしている。
死んでしまった男性は劇作家(この設定は、はせさんの余裕の産物だろう。ふつうそれをしたら楽屋落ちみたいになり、あざとくなる。でも、はせさんなら大丈夫!)で、彼より先に死んでいるその友人と妻が彼をナビゲートする。幽霊たちはもちろん生者には見えない。死者と生者の交流を描くなんていうパターンにはしない。てんでばらばらに好き勝手している。というか、葬式のために忙しいから3人は生きている人たちの邪魔はしない。
そんなこんなで、今回も定点観測(はせさんの得意技)をしているだけなのだが、今ある現状を受け入れて、この時間を大事にする。葬儀だから、故人を偲んで、とか、そんなありきたりな理由ではない。とまどうのは何も神様だけではない。というか、戸惑うのはふつう人間の方だ。だから当然、小刻みに戸惑う人々の姿を描いていく。それだけ。
戸惑う彼らの姿を適度な距離感を取りながら描くはせさんの筆致はやはり心地よいとしか言いようがない絶妙さ。1時間50分があっという間の出来事だ。さらっとしていて後味もいい。確かにこんなふうに死者を見送れたならいい、そんなふうに思わせてくれる作品。