
劇団往来は3年連続でこの時期、シェイクスピアに挑んだ。しかも毎回違うアプローチをする。最初は『ヴェニスの商人』。そこではいつもの往来のタッチをベースにして見せる。コロナ禍を考慮してか、なんと上演時間90分を目安にしたスピード感のある芝居に仕立てた。短くわかりやすく楽しむシェイクスピアを目指す。次は4大悲劇のひとつである『マクベス』に挑戦。若手を大胆に起用してモノトーンの作品に仕上げた。そして今回はさらに趣向を変えて恋愛ものに挑戦。でも、同時に得意の喜劇でもある『十二夜』に。
2時間の芝居は安定したスピードと展開になっている。無理せず、たわいないお話をさらりと見せてくれる。『真夏の夜の夢』や『から騒ぎ』にしてもそうだが、この手のコメディはシェイクスピアも往来も得意分野だ。気合いを入れないで、肩の力を抜いて、ふざけ過ぎずに作った。(往来は時々調子に乗って必要以上にふざけて結果的に滑ってしまうことがよくある)脚本(翻訳)、演出の神澤和明はそのあたりのバランスを心得ている。(コメディリリーフを担った要冷蔵だけはちゃんとひとりで弾けるのはご愛嬌)
オリジナルの設定自体に無理があるけど、そんなこと承知の上で、双子の入れ替わりとか、男装の麗人とかいう定番を引き受けて、嘘だから楽しい世界を体現した。もう少し弾けてもいい気がするけど、演出は鈴木健之亮ではないから(彼は監修)このくらいに抑えてある。まぁ、それも悪くない。シンプルなストーリーで、わかりやすいからもっと遊んでもかまわないけど、そうはしない。だから少し単調で退屈もする。真面目な神澤演出はそれでよしとした。
今回の主人公にはOSK出身の高世麻央を招聘した。彼女を中心に若手の純歌、西川すばる、そして中井善朗がメインキャスト。この4人の男女による恋物語だ。台本のせいかもしれないが、4人の描き方に偏りがある気がする。もっとバランスよく配置、展開したほうがいい。「男女4人恋物語」っていう感じの群像劇にすべきだ。まぁそれはシェイクスピア本人に文句を言うべきものなのだろうが。でも、台本の改変は可能だろうから、神澤さんがちゃんとアレンジして脚色すればいい。『ヴェニスの商人』ではあんなに思い切ってカットしたのだから、今回はもっと面白いお話へとアレンジしてもいいのではないか。ウェルメイドな作品で安心して見られるのだけど、できることならもう少しはしゃいで欲しかった。