先日BSで吉永小百合の『若い人』を放映していた。少しと思い見始めたらなんとなく、最後まで見てしまった。1962年の作品である。もちろんリアルタイムでは見ていないけど、高校生のとき、まずTVで見ている。その後、昔あった名画座(東梅田日活)でも見ているはずだ。10代のころ、60年代の日活青春映画が大好きで必死で追いかけた。朝のTVの「あなたの映画劇場」やお昼のSUNテレビの名画劇場とかで。当時はあと10年早く生まれてきたらちゃんとすべてを劇場で見ることができたのに、と悔やんだものだ。西川克己監督の映画が大好きで、彼が手掛けた山口百恵の映画はちゃんとすべてリアルタイムで見たけど、僕は百恵ちゃんより吉永小百合がいい。遅れてきたサユリストだっだ。
10代後半のあの頃、現実よりも映画の中のほうが、リアルだった。映画の世界に逃げていたのだろう。キラキラしていた日活青春映画群が夢の世界だった。特に吉永小百合の映画は群を抜いていた。映画史に残る傑作『キューポラのある街』だけではなく『いつでも夢を』や『草を刈る娘』『あいつと私』。浜田光夫や高橋英樹がそこにはいつもいた。
裕次郎とコンビを組んだこの『若い人』は甘い映画だ。原作は当時としては衝撃的な内容で重くて暗い。それを日活青春映画として作り替えた。70年代に桜田淳子主演でリメイクされた映画(懐かしい河崎義祐監督作品)のほうが原作の感触をちゃんと踏まえていた気がする。
ここからは余談だが、河崎義祐監督は片平なぎさ主演の僕の生涯の傑作『青い山脈』でデビューした。あの映画をもう一度見たい。今では誰も知らない映画だろう。あの頃、あの映画を見て石坂洋次郎のファンになった。すべての小説を読んだはずだ。そんななかでも『青い山脈』は一番だ。何度読んだことだろうか。あの小説のなかの世界で生きたいと真剣に思ったほどだ。そしてあの映画は原作を忠実に再現していた理想の映画だったのだ。少女だった片平なぎさがキラキラ輝いていた。三浦友和、田中健もよかった。映画館に3度通って5回は見た。吉永小百合主演でも『青い山脈』は映画化されているけど、あれはまるでダメだ。最初の映画化である今井正監督の『青い山脈』(前後編で3時間の大作)は有名だが、これもそれほどではない。
さて、話を戻そう。吉永小百合の『若い人』である。この映画は原作の函館から長崎へと舞台を変更した。南国で坂の町、長崎。暖かい日差しの中で、少女の担任の先生へのほのかな恋心を描く少女漫画の定番のお話に変えた。彼女の出生の秘密、彼女の不安、それを受け止めることで泥沼に落ちていく若い教師、という図式を甘い映画というオブラードでくるんでしまう。だから、当時原作を先に読んでいたから、この映画はないよな、と思った。でも今見ると、この甘さがなんだか心地よく、これはこれでいいじゃないか、と思えた。
60年代の地方都市の光景が目に染みる。さらには修学旅行での東京! 東京なのにそこは田舎である。タイムスリップした気分。映画は西河克己監督らしい健全で、爽やかな青春映画に仕上がっていた。膨大な小説は90分という予定通りの上映時間内にきちんと収まる。(原作は上下巻で800ページ以上あったのではないか)
そしてなによりもまず女子高生を演じた吉永小百合がとても美しい。だから今はそれだけでいい。ただ明るいだけではなく、愁いを秘めた少女という設定にもそそられる。でも彼女が演じるから悪びれても健全。久しぶりになんだか少しだけ高校時代の幸せな気分に浸れたのでよかった。
中学から高校生になったあの頃、現実から逃げて昔の映画の世界に溺れていた。毎日が退屈で、未来はなかった。何も楽しくなくて、キラキラ輝いていた60年代の青春に憧れていた。8ミリで自分たちの映画を作り始めるまで、まだ少しの時間がかかる。そんな時代、17歳の頃を思い出す。