なんとこれは600ページに及ぶ大作だ。そんな分厚い本を手にして読み始めたのだが、なかなか読み進められない。難しいとかつまらないとかいうわけではない。それどころか面白いからどんどん先が気になり、読み進めてしまいそうな小説なのだ。なのに、しばらく読むと疲れてしまう。それは内容があまりにきつくてハードだからだ。
お話は2020年春から始まる。コロナが本格的になる時期だ。主人公の花は40歳になる。総菜屋で働き一人で生きている。だが、コロナのせいで店は閉店するから、この先どうするか、あてもない。そんな時、たまたま思春期からずっとお世話になっていた黄美子が若い女性を監禁し傷害罪で検挙されたという記事をネットで見つける。彼女とは20年前に別れたまま、今に至る。あの頃の記憶をたどる。ここからお話は始まる。
花と黄美子はスナックを始める。黄美子は花より20歳年上。花は幼いころから母親代わりになってくれている。ラッキーカラーだと信じる黄色を示す「れもん」と名付けた小さなスナックは順風満帆だった。そこに花と同世代のふたり、蘭と桃子も加わる。そんな4人での同居生活は、スナックの入っていたビルの火災で終わる。
テンポは遅いし、何を描こうとしているのか、なかなか明確にはならない。ゆっくりとこの4人の日々が綴られていくのだが、やがてそれが破局を迎えることだけは明白だ。そして、その最初が母親の借金返済のための200万の用立てだろう。そして、「れもん」の火事消失。ここから話はようやく本格的に動き出す。すでに300ページを過ぎている。
10代後半から20歳までの時間。お金にがんじがらめにされる。後半は「金」という文字が1ページの何十回となく出てくる始末だ。読んでいて息苦しくなる。だから50ページくらい読むと休憩が必要になるのだ。破局へと転落するまでが延々と続く。凄まじい小説だったが、好きではない。だが、ようやく読み終えたとき、何かし遂げた気分にすらなっていた。小説を読んだだけなのに。
長い物語は彼女の苦難の歴史で、本来なら一番輝いているはずのハイティーンの時間は、不安と恐怖の日々。でも、そこで彼女が出会えた人たちはそんな中で必死に生きている。たったひとりで生きること。誰かの支えがあること。生き抜くことって大変なことなのだ。黄美子さんがいたから、生きられた。今、たったひとりで生きていられる。何もない人生の途上で彼女は佇んでいる。