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映画・演劇のレビュー

『フロスト×ニクソン』

2009-11-09 21:11:55 | 映画
 対決ものである。ロンドンやオーストラリアでは売れっ子の若手ジャーナリスト、というかTVトークショーのホスト、フロストが、失脚したニクソン大統領に独占インタビューを申し込む。これをきっかけにしてアメリカに乗り込もうとするフロストと、これを通して政界に返り咲こうとするニクソン。それぞれの思惑が交錯する中、世紀の対決が始まる。

 ロン・ハワード監督最新作。地味な映画だが、実に面白い。若造と古狸の10時間に及ぶ対決は、インタビューなのに、まるでボクシングの試合のようだ。スポーツを見ているような気分にさせられる。どちらが勝つのか、丁々発止のやり取りが2時間、5ラウンド続く。そんな中で劣勢だったフロストに大逆転はあるのか。

 ベトナム戦争、ウォーターゲート事件を争点にして再起を賭けるニクソンと、彼を踏み台にして、世界に羽ばたこうとする若き野心家フロスト。周囲のブレーンも含めての総力戦だ。お互いの戦略、手の内を隠して、どう戦うか。事件の真相に迫るのではなく、歴史のなかで、生きた男の内面に迫る。

 見ていて面白いのは、フロストが全財産を注ぎ込んでまでこのプロジェクトに賭ける意気込みがよくわからないことだ。意地にでもなっているのか。単なる思い付きからスタートし、自分なら出来ると踏み、軽く考えてスタートしたのに、結果的には自分のすべてを賭けて生きるか死ぬかの大勝負になる。ここまでのリスクを背負うことになるとは本人も思わなかったろう。だが、動き出してしまったものはもう停められない。

 軽くひねるはずだったのに、予想以上に手強い相手に業を煮やすニクソン。危機一髪をなんとか切り抜けるフロスト。これをゲーム感覚で見るもよし。

 この2人のトークバトルは全米を熱狂させたらしい。映画は当時を振り返る周囲の人たちへのインタビューを交えながら、対決の日までをドキュメントしていくというスタイルを取る。リアルタイムとはしないことで、その距離感の中に作者は何を込めたのか。実はそこが一番気になる。だが、映画からはその答えは見えてこない。

 

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