『明け方の若者たち』の松本花奈監督の前作。TVドラマシリーズの1話から3話までを編集して作った劇場版。ドラマより先行する映画なのに、素材はドラマのままというのは珍しい。これではただのTVの宣伝でしかない。でも、作品自体はとてもよく出来ている。ここには映画だからという気取りはない。さりげなく高校生たちの日常が描かれる。
大概な設定だし、突っ込みどころは満載だしあり得ないのだけど、それでもそれをさらりと見せるから、こういうのもいいかな、と許せる。大仰にやられたり、いいかげんなコメディ仕立てで逃げたりされるとやりきれないし見てられないのだが、嘘くさいお話を丁寧に作ることで、こういう夢のような学園ドラマもありか、と思わせてくれる。主人公はとてもシャイな男の子(宮村。)だけど、家に帰るとピアス7個とか、体中に入れ墨とか、なんだかふつうならバカバカしくてあきれるところだけど、それを鈴鹿央士がふつうに演じるから、受け入れてもいいかぁ、と思う。それにしてもあの髪型。ピアスよりも、あれのほうが「ないわぁ、」と思う。それから、女の子の家に入り浸るとか、そこも「ふつうないわぁ、」と思うけど、それも許せる。秀才だけど、幼い弟の世話をして家事もしているから大忙しの女の子(堀)を久保田紗友が演じる。このふたりのお話だからホリミヤ、って、なんて安直。ふつうなら出会うはずのないふたりが偶然出会い、ひょんなことから仲よくなり、さらには彼女の友人だった男女と計4人で高校生活を謳歌する。
うまく人と接することが出来ず、誰とも心開くことなく、教室の片隅でひっそり生きてきた彼が彼女と出会い、お互いの隠してきた秘密を共有する。彼になら話せるし、彼女になら話せると、お互いが思う。きれいごとだらけ。嘘満開。だけど、これはそんな夢物語なのだ。まだ23歳の(撮影当時は22歳か)松本花奈監督は、こういうどこにでもあるような胸キュン青春映画を気負うことなく、さらりと作る。お話のたわいなさもいい。映画だからという気負いもない。だいたい、深夜放送のドラマの宣伝のための映画である、気負う必要もない。肩の力が抜けた映画でいい。「いいんじゃない、こういうのでも、」というくらいのスタンスで作られてある。でも、それは気を抜くとか、ましてや手を抜くとかでは断じてない。こういう小さな映画があってもいいのだ、というさりげなさ。30分のお話を3つ串団子にしただけのはずなのに、ちゃんと1本の映画になっている。おままごとなのだけど、それがどうした、という感じ。堂々としているのがいい。何の障害もないちゃんとキラキラした映画になっている。