習慣HIROSE

映画・演劇のレビュー

『東京バンドワゴン スタンド・バイ・ミー』

2008-10-14 11:43:16 | その他
 シリーズ第3作。もう続編はない、と思っていただけに、とてもうれしい。この大家族の中に入って、彼らの心地よい世界でまどろむことは快感だ。昔はどこにでもこういう風景があった。一つ家でみんなが暮らし、お互いに干渉したり、助けあったりして生活していく。そして、どんどん人間関係が広がっていき、次々いろんな人たちが彼らの輪の中に入っていく。そんな家族の輪が、この小説の中にはとても丁寧に描かれている。読んでいて気持ちがいい。

 こんな幸福な家族は今時、なかなかない。80歳になる祖父勘一を頂点にして、彼の孫、ひ孫までが一つ家で暮らす。みんなでわいわいいいながら毎日が過ぎていく。東京バンドワゴンは古本屋であり、カフェでもある。ここにはいつのまにかたくさんの人たちが集まり、いつもなにやら騒動が起きる。話自体は何てことない。だから、書かない。だが、そんなたわいない話がこんなに気持ちいい。

 もうこの国にはこんな家はない。その奇跡の家族がここにはある。それをことさら特別視なんかしないで、当たり前のこととして、のほほんと見せる小路幸也はすごい。周囲にむける彼の優しい視線がこの傑作シリーズを支えている。

 この家族の周囲にいる人たちはこの家の心地よさにあこがれて、ここに集まってくる。みんながみんなここを愛しく思って足繁くここに通う。それを分け隔てなく受け入れていくことで、友だちの輪はどんどん広がっていく。

 内田裕也にしか見えないこの家の長男、我南人がすばらしい。60を過ぎてもずっとふらふらしている。伝説のロッカーなんて言われて、今も金髪ロンゲでへんなおっさんなのに、みんなをLOVEでPIECEにしていく。自由奔放に生きているように見えて、実は誰よりもみんなのことを考えている。こんな人がいたなら、おもしろいだろうなと思う。こんな変人すら許してしまえる家族ってすごすぎる。でも、きっと昔はこんなふうにして日本の家族って成りたっていたのかもしれない。気付くとイギリス人のマードックさんも、IT会社の大富豪である藤島さんも完全にこの家に馴染んでしまっている。

 こうして書いているうちにあることの気付く。これってなんだか、もうひとつの『男はつらいよ』シリーズではないか、なんて。そんなふうに思えてきた。我南人はまるで寅さんではないか。そして、東京バンドワゴンはとらやそのものである。

 

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