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映画・演劇のレビュー

楽市楽座『金魚姫と蛇ダンディー(2008)』

2008-10-14 11:22:57 | 演劇
 今年で3年目を迎えた楽市楽座による「同じ演目を繰り返し繰り返し上演していくことで劇団のスタンダードを作り上げていく」という作業。続編ではなく、再演。しかも、役者の一部変更も含めた改訂を繰り返すことで作品世界をどんどん深めていくとする作業。関西の小劇場界でこういう大胆な試みを、しかも、集中的にこなそうとした劇団は、ない。あまりにリスクが大き過ぎるし、題材自身にもそこまでのめりこめることができないからだ。人の興味関心はどんどん移ろっていく。その変化の方が若い作家にとっては大事だから、いくら遣り残したことに悔いがあったとしても、それをもう1度続けてやるより、次の題材に向かってしまうのは当然のことだ。しかし、人間はそう簡単に変わらないから、いくら新作を作っても、結局はいつも同じようなものを作り続けている場合がほとんどだろう。

 ならば、ひとつの題材をとことん突き詰めていこうとする長山さんのやり方は理にかなっている気もする。それほども惚れ込めるような作品と出会えた、ということは何よりも素敵なことではないか。困難は充分承知の上で、それでもずっとこの作品を上演していこうとした彼の決意の程がしっかり伺えるそんな芝居に仕上がっていた。

 第1幕を中心にして台本は、ほぼ全面的にリライトしてある。ここまで変更したならこれはリメイクと言ってもいいくらいだ。その結果とてもすっきりした構成になっている。今までもたついていた部分が完全に削ぎ落とされており、新たに書き加えた部分が芝居の流れをよくしている。それと同時に作品全体の構造も今まで以上にわかりやすくなった。

 昨年は2幕ものに変更されたが、今回再び3幕ものとなり、結果的には上演時間は長くなり3時間15分もの作品になってしまったが、そんな長さをあまり感じさせないのはさすがだ。この作品の集大成となる快心の出来である。

 金魚姫(佐野キリコ)と蛇ダンディー(朧ギンガ)の関係性、2人それぞれの思いも今まで以上にストレートに伝わってくる。新たに加えられたお金にまつわるエピソードもしっくり作品の中に溶け込んでいる。金魚鉢を叩き割ることで世界の中に飛び出していくこととなる冒頭の部分も上手い。広い世界と狭い世界の対比。止まることと出て行くこと。それが2人を通して描かれていく。虫けらたちの世界が人間社会の寓話となっているという従来からある構造もとてもわかりやすく表現してある。そして、ラストのラフレシア全体を祝祭的空間としていく部分まで、よく考えて作られてある。

 当然視覚的な効果と処理もどんどん上手くなっている。寺門孝之さんによる衣装とメイク(特に主人公2人のコスチュームは従来のものを生かした上でさらなる驚きを与えてくれる)は秀逸だ。3幕の降りしきる雨なんて、ほんとうに雨が降ってきたかと見まがうばかりだ。びしょ濡れになりながら、熱演する2人の姿は感動的だ。

 魔人ハンターミツルギさんと曽木亜古弥さんによる松の木と梅の木の2人が、ドラマ全体を上手くリードしていき、作品全体をなめらかにしてくれたのもいい。

 役者たちは昨年、一昨年と同じ事は出来ないし、キャストの変更された部分は前任者の芝居から受けるプレッシャーもあったはずだが、そんな中、みんなよく頑張っていたと思う。

 三年連続上演という偉業を成し遂げたことで、楽市楽座は、また一歩、大きく前進した。

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