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映画・演劇のレビュー

『返校 言葉が消えた日』

2023-01-11 10:32:58 | 映画

2019年の台湾映画だ。台湾で予告編で見たよ、と妻が言っていた。ようやく2021年に日本でも公開され、さらには先日からは配信でも公開された。劇場公開時見逃したので早速見たのだが、期待以上の出来で嬉しい。これはただのホラー映画ではないだろうと、予告を見て確信してはいたけど、台湾で大ヒットしたゲームの映画化、という宣伝が気になって劇場公開時には二の足を踏んだ。安易なホラーだったらがっかりだと心配したのだ。でも、ちゃんと劇場で見ておくべき作品だった。惜しいことをした。それくらいよくできている。

3部構成で、時間が激しく前後していく。最初は何なのかわからなしシーンが繰り返しで明確になっていく。主人公のふたりの男女がそれぞれの視点から目の前の悪夢の意味を知る。お互いの関係性も明確になっていく。第1部「悪夢」が圧巻だ。1962年戒厳令下の台湾。恐怖政治の時代。敢えて封印されてきた歴史の痛みをシリアスなタッチで切り取るから、これがホラー映画であることを忘れる。社会派映画だと言われても納得のいくような描写が続く。こんな悪夢の時代を台湾が潜り抜けてきたのだと改めて認識する。

高校生たちが主人公だ。彼らは禁書となった本を読み、模写して残そうとする。だが政府の役人の手は高校内にも及ぶ。弾圧を潜り抜け、自分たちの自由を守るための戦いが描かれる。教師たちも生徒たちも一丸となり戦うのだが、権力の前では空しい抵抗だ。まるで『理大囲城』を思わせる。

お話自体は居眠りしていて夜の校舎で目覚めたふたりが学校から出ていこうとするのだが出ることができない、なんていうホラーの定番の展開なのだが、そこに62年の台湾というフィルターがかかるから、映画は単純なものにはならない。さらには2部「密告者」でお話の核心に入る。ホラーという意匠よりも、あの時代という恐怖のほうがホラーなのだ。あの時代を生き抜いた今が描かれる第3部はただのエピローグではない。そこに台湾だけではなく、世界中で連綿と続く(繰り返される)歴史の暴挙を重ねる。平和な今の時代を謳歌するのではない。あれから何年(50年、60年)経とうとも、あの恐怖は過去のものにはならない。国民党政権下の白色テロ時代を大ヒットしたホラーゲームとして作り、それをこんなふうに映画化したまさかの映画は、言論弾圧の恐怖政治の時代を経て今の台湾があるという事実を改めて認識させる優れた社会派映画になる。


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