夢枕獏の小説(これは日本で『エヴェレスト、神々の山嶺』としてすでに実写映画化されている)を谷口ジローが漫画化した『神々の山嶺』をフランス・ルクセンブルク合作でアニメーション映画として作った作品だ。平山秀幸監督の実写版映画もよかったが、これはそれをはるかに凌ぐ。94分と短い映画だが、密度の濃い力作だ。というか、このお話をこの尺で見せきるところが凄いのだ。そしてそれがアニメーションならではの圧倒的なスケールで描かれることも。だいたいアニメなのに、日本人が主人公なのに、フランス映画なのに、というところにも驚くしかない。(まぁ、谷口ジローはフランスで有名だけど)
シンプルに削ぎ落したドラマと、圧巻な登山シーン。お話はジョージ・マロリーはエベレストに登頂したのかという謎から始まる。冒頭、カトマンズで雑誌カメラマンの深町誠がマロリーの遺品と思われるカメラを手にした男を見かける。その男は消息不明になっていた孤高の登山家・羽生だったと深町は確信する。
羽生はどこにいるのか、という追跡のドラマが深町を描く現在の日本を舞台にしたシーンと、羽生を描く過去のエベレストのシーンを対比させながら描かれ、やがて壮大なスケールで冬季エベレスト南西壁無酸素単独登頂に挑む羽生と深町のドラマへと収斂していく。
このクライマックスが素晴らしい。よくもまぁ、これだけの描写が可能だったものだ、と感心する。実写ではなくアニメでこれを描くのである。一歩間違えばただの平板な描写にしかならない真っ白な雪山を、(その迫力を)アニメで見事に描き切る。しかもそれを気負うことなくさらりとしたタッチで、である。このシンプルな映画の中には主人公であるふたりの描写を通して、作り手の執念が同時に詰まっている気がした。こういう作品が作られたこと、そしてそれがこれだけの完成度を誇ること。作り手の真摯な姿勢に圧倒される。