この六日から新春第2弾として公開された映画の中で早速1週間で上映がほぼ終わる作品が多数ある。この映画も不入りから2週目から1日2回上映にされるようだ。なんだか悔しい。作り手の熱意が込められたこの素晴らしい作品が一瞬でスクリーンから姿を消す。それが今の日本での映画興行の現状なのだ。寂しい。これは今年のベストワンかもしれない力作なのに。
冒頭からまさかの展開には驚くばかりだ。日雇いの仕事に向かう男たちの姿を捉える朝の描写を長回しでドキュメンタリー映画のようなタッチで見せていくシーンから一気に作品世界に放り込まれる。ここには僕たちが知らない世界がある。それを映画はリアルに見せていく。ブラジル人移民のコミュニティと関わりあうことになる役所広司演じる初老の男とその息子(吉沢亮)のお話だ。そこから始まるある種のハートウォーミングだと思って見始めたのに思いもしない展開で驚く。これはまさかのハードな映画で、小さな幸せすら望めない過酷な現実、小さな幸せが簡単に壊れていくさまが描かれていく映画。そして確かにタイトル通りこれは家族のお話だ。でも、そんな家族の絆が守られることの困難が描かれる。
役所は半グレ集団から付け狙われるブラジル人たちを庇うことになる。ここからはなんだかヤクザ映画みたいな展開でそれにも驚くが、でもそこからブラジルからの移民たちがこの国で暮らす現状が浮き彫りにされる。彼らは使い捨て労働者として搾取される。あのブラジル人たちが暮らす古ぼけた高層マンションは実在するのだろうが、日本のどこか(愛知県だけど)に確かにこんな場所があるのか、と驚く。そしてそこで暮らす彼らの生活が半グレやその上にいるヤクザたちに牛耳られていること、彼らの生活の貧困とドラッグ売買を巡るドラマはお話の方便ではなくとてもリアルだ。こんな現実が今の日本にはあるのだろう。外国人の移民に対するこの国の対応は昨年の入管の問題を描く『マイ・スモール・ランド』でも明らかだ。
だが、お話はそれだけではない。さらには後半アルジェリアでのテロ事件で役所の息子夫婦が犠牲になるお話へとシフトしていく。テロには屈しない(テロリストの要求を飲まないし、身代金も払わない)という政府の対応の犠牲になり二人は死ぬ。役所は憤りを感じる。
役所演じる山里でひとり地道に仕事を続ける陶芸職人が、向き合うことになる外の世界。ブラジル人青年たちとの交流。アルジェリアの女性と結婚する息子。その2点からお話は展開する。役所は彼ら(ブラジル人たちやアルジェリア人の女性)とのかかわりを通して今まで自分の知らなかった世界が見えてくる。それがアルジェリアでのテロ事件という本当ならTVで見るだけで終わる自分とは関係ない遠くでの出来事のはずの事件につながる、人質に取られ殺される息子たち。この遠くで起きた家族の話と、近くで今起きているブラジル人青年たちの現実。この無関係の問題は彼にはひとつになる。
成島出監督はデビュー作『油断大敵』で役所広司とコンビを組んだ。成島はその前にも役所主演の『シャブ極道』の脚本を手掛けている。あの頃の感じで、作られている。荒々しい過酷な現実と境遇。ほとんど素人のブラジル人キャストがとてもいい。成島は数々の優れた映画を手掛けてきたが、今回初心に戻って、リアルな描写を前面に押し出し、我々が生きる世界の一側面を生々しく切り取る。これは凄い映画だ。