これはホ・ジノ監督の短編映画である。昨年日本で劇場公開されていたが、30分の短編なので見に行くのを躊躇した。2017年作品だが未公開だった作品だ。近年の彼の映画は明らかに迷走している。もうあの2本でやりたいことをやり遂げてしまった後のような感じ。
彼は『八月のクリスマス』と『春の日は過ぎゆく』という2本の最高の映画を作った。映画史に残る傑作である。だがその後は残念だがあの2本を超える映画は作れていない。
これは彼にとって久々の本格恋愛映画である。ストレートな純愛物語の佳作だと思う。見てよかった。これは企業協賛のPR映画で、たった30分だった。だから出来たのかもしれない。気負いがない。サラッと感傷なく作った。障がい者を主人公にして、彼らを余分な思い入れを排して描いた。ここには一切ムダがない。だからといって端折っているわけでもない。このサイズの映画だからこそ可能な作品にした。
ただこの作品を、この作品だからこそ、長編として作れなかったのかと惜しまれる。主人公のふたりが寄り添い、目の不自由なふたりがそんなことにこだわることなく素直に自分の思いをぶつけ合うことで生じるドラマを100分ほどの物語として見せて欲しかった。『八月のクリスマス』は死ぬことを受け入れて、なおかつ生きることを望んだ青年の想いを描く傑作だった。何も言わないのに、冒頭の数分間で彼の今が伝わってきて泣けた。あの繊細な描写こそがホ・ジノの武器で、それは本作にも生きている。
青年が初めて施設に来て目の不自由な人たちの会合に参加する。入り口で出会った女性に場所を教えてもらってドアを開ける。そんななんでもない一連のシーンが彼の今を伝える。さらにはふたりの出会いを描く。簡潔でさりげない、なんでもない展開なのにとてもいい。その後も同じ。ふたりの恋を気負いなく描く。
目が不自由な人たちが写真を撮ること、それを映画の中心に据えた。思えば『春の日は過ぎゆく』では音を録ることをお話の中心に据えていた。五感を澄ますこと。周りにあるもの(ひと)を見つめること。そこから生じるドラマに耳を傾けて目を向ける。生きる輝きを見つめる。そんな映画がホ・ジノの映画だ。今回初心に帰って、新しいスタートを切る。これはそんな想いがしっかり伝わってくる小さな映画である。