ようやく見ることができた。ただ期待があまりに大き過ぎたからか、少しガッカリする。確かにカウリスマキらしい映画だが、それだけ。セルフリメイクを見せられた気分だ。新しい発見はない。ヘルシンキの町で出会った男女が不器用な恋をする。ラジオからはロシアによるウクライナ戦争の情報が流れる中、小さな恋はもどかしいくらいにゆっくり進展していく。
理不尽な理由から仕事をクビになった女と、真面目だがアル中で酒を飲みながら仕事をするから仕事をクビになる男。
ふたりが初めて見た映画がジャームッシュのゾンビ映画だったり、映画館にはゴダールの『気狂いピエロ』を始めとする往年の名作のポスターが貼られていたり。細部には楽しい仕掛けが施されるが、映画自体はあまり弾まないし、驚きはない。主人公がお酒をやめたらすべてにおいて上手くいくというわけではない。
ただ一応のハッピーエンドにはホッとするけど、それだけ。ここにはまだ明るい未来はないけど、枯れ葉の中一緒に歩き始めたふたりの姿を捉えたラストを見ながら、もしかしたら大丈夫かも、なんて思う。でも、なんだか少しモヤモヤする。
簡単に僕らの日常は壊されていく。自然災害や戦争は避けられないのか。だけど、僕らはささやかな営みをやめない。生きていく。カウリスマキは何があっても歩みを止めないことが大事だと自らの映画作りを通して訴える。