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映画・演劇のレビュー

額賀澪『タスキメシ 五輪』

2023-01-10 10:35:44 | その他

シリーズ第3作にして完結編(たぶん)。高校駅伝、箱根駅伝、そして東京オリンピックへと、彼らの世界はどんどん広がっていく。高校生、大学生、社会人、と立場も現状も変わっていく。でも、彼らの横(前でも、傍でもいいけど)には、走ることがある。人生のタスキをつなぐ。

今回は中短編による連作スタイルだ。一貫した話はないし、エピソードごとに主人公も異なる。そこではこれまでこのお話を彩ってきたメンバーたちの「今」が描かれていく。そして2020年から始まり、23年の元旦、ニューイヤー駅伝までが描かれる。当然そこではコロナ禍が背景となる。そして東京五輪だ。

2021年、1年間延期された東京オリンピックが開催される。これはそれを巡るお話が中心となるが、そこに留まらない。前半の「祈る者」は東京五輪選手村の食堂が舞台の中心となる。食堂管理を任された千早とそこで働くことになった都の話である。これだけで終わるのはなんだかなぁ、と思ったらそうではなかった。後半はなんと(唐突に)その後の話になるのだ。ゴールは当然東京オリンピックなんかではなかった。そこもまたあくまでも通過点でしかない。お話は春馬、藤一郎という現役アスリートたちの話へとスライドしていく。

駅伝を題材にして、食を扱うというこのシリーズの発想は素晴らしい。今回これまでの主人公である早馬のお話はほとんど描かれないが、群像劇として描かれたこの作品ならではの構成でお話全体を締めくくる。2024年パリ五輪に向けてのスタートまでが描かれる。残念だが作品全体の構成はなんだかぎくしゃくしているし、かなり無理があるけど、これはこれで悪くないかも、とも思う。だって今回もまた胸が熱くなるドラマだったのだから。そして、社会人になって、陸上競技からたとえ離れても(離れないけど)彼らはずっとアスリートだ。


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