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映画・演劇のレビュー

村田喜代子『耳の叔母』他

2023-01-10 09:58:28 | その他

なんともまぁ、懐かしい。彼女のデビュー作『鍋の中』を読んだ時の感動がよみがえる。30年以上も前のことなのだ、と感慨に耽る。これは新刊だが、村田喜代子があのデビュー当時に書いた短編から現在までの短編作品アンソロジーだ。1986年から2006年までの8作品が収録されている。そこには以前に読んだ作品もいくつかある。あまり覚えてないけど、これどこかで読んだよ、と思える作品がいくつか見受けられる。調べたら『鍋の中』に収めた短編もあった。それが『最愛』だ。でも、これは初めて読んだ気がする。(確実に30年以上前に読んでいるのに)最初の『鋼索電車』は絶対読んでいる気がしたけど、どこで読んだのだろうか。

最初の3篇には、いずれもうんこが登場する。便所の記憶。昔の臭い映画館の便所。なんと小学校の校庭に作られた仮設の便所。道端の犬のうんこ。汲み取り式便所の匂い。(臭い、だけど)最初は、そんな便所と幼い日の少女と弟のお話が続く。これは彼女の想い出の風景だ。

その後も、古い助産院、死んでしまった友人、火事で燃えた工務店、91歳で亡くなった舅の3回忌と描かれるのは記憶の中のいくつもの光景。この短編集にはそんな断片の数々が綴られてある。読みながら、自分の中にもあるこれと同じような記憶の底に沈んだ光景がよみがえる。

ここからは追記。

年末年始に読んだ1冊目の本は大濱普美子『陽だまりの果て』だった。これもまた幻想的な中短編集だった。この本は独特の文体で読み込むのが困難で時間がかかり、少しあきらめたけど(2つ目の『鼎ヶ淵』と『陽だまりの果て』は途中でやめた)4つ目の『骨の行方』が素晴らしかった。中年女性と老女の出会いと別れが描かれる。お話は万引きから始まる。引き込まれた。これを含む後半の3篇には魅了された。昨年の第50回の泉鏡花文学賞を受賞しているようだ。まぁ当然だろう。

さらにもう一冊。松井久子『最後のひと』。前半が素晴らしかった。75歳の老女が86歳の老人と恋に落ちる話。こんなことがあればいいな、と読みながら幸せな気分にさせられた。いくつになってもトキめきが欲しいのは当たり前。ふたりが純粋に恋をする。それを周囲が応援する、という図式も微笑ましい。だが、後半なんだかあまりに生々しいことになり、少し引いてしまう。実はそこが本題なのだろう。でも、さすがに老人のセックスなんて、衝撃的で受け付けない。偏見はないつもりだが、僕には刺激が強すぎた。性のつながりが大事なのはわかる。だけど、70代や80代になってもそういうものを求めるのは、なんだかなぁ、と思ってしまう。読んでいて、恥ずかしいのだ。(このふたりの行為が恥ずかしいのではない)まだまだ僕は子供なのかもしれないな、と思う。


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