3時間17分の超大作である。BSPで一挙上映(放送だけど)していたので、見た。途中休憩が2分ほどあるけど、それだけでラストまで休みなしだ。昔の映画だけど、飽きることなく集中して見ることができた。配信ではないからトイレにも行けないし、途中で止められない。そんな状況下で結構緊張して見ることになった。
熊井啓監督作品である。こういう作品を任されて気負うことなく、作ることができたのは凄い。しかも、まだ、若い頃の仕事だ。巨匠となり、さまざまな大作映画を手掛けたのはこの映画より後のことである。キャリアの前半戦にこういう映画を引き受け、見事に完成できたのは、才能だけではなく、若さゆえの傲慢さと体力や気力があったからだろう。これは石原裕次郎と三船敏郎がタッグを組んで日本映画に革命を起こそうとした超大作映画だ。国家的プロジェクトに挑んだ実話を、同じように、今までの日本映画界では不可能なプロジェクトとして、挑んだ。
堂々たる大作である。だからこれは大きなスクリーンで見るべき作品だろう。以前、たぶん短縮版を見ている気がするけど、ちゃんと見るのは今回が初めてだ。凄いとしかいいようがない。こんな映画を作ろうとしたということ、それだけで感動する。大企業(関西電力とか熊谷組とか)の宣伝映画ではない。これはとんでもないことに挑んだ人たちの戦いのドラマだ。後年、同じように国家的プロジェクト、青函トンネルを描いた森谷司郎監督の『海峡』なんていう映画もあったが、スケールではこちらのほうが圧巻である。森谷監督は『日本沈没』と『八甲田山』が代表作だが、『海峡』のアプローチの方が本来の彼の資質に近い。大作映画ではなく、ささやかなドラマをきちんと見せていくのが得意だ。『海峡』は大作を敢えてメロドラマの図式の中に落とし込んだ。同じキャスト(高倉健、吉永小百合)で挑んだ『動乱』もそうだった。だけど、いずれも作品としては成功とは言い難い。
熊井啓は、あえて自分の資質に封印をして、この映画を作った。映画の中に息抜きとしてメロドラマ的な展開もいれたが、本当はそういうのはどうでもいいはずだ。さらには感動的なエピソードも描くが、そこもさらりと流している。では、これはドキュメンタリータッチの映画なのか、というと、それも違うと思う。では、この映画の中で彼は何がしたかったのか。
日本がこれから先どこに向かうのか。その指針を示そうとしたのではないか。これはこの国の未来に向けてのメッセージだ。熊井映画の中では異質なこの作品は、がむしゃらに突き進むとその先に何があるのかを、見えない未来を、そこに託した。若かったからこそできた仕事だ。これはこの先、彼が挑む本来の仕事への第一歩を刻んだ作品である。この作品の直後、彼は『日本列島』と『忍ぶ川』を作る。
僕は『サンダカン八番娼館・望郷』からリアルタイムで彼の映画を見ている。あの映画の衝撃は忘れられない。それから彼の作ったすべての映画を劇場で公開時に見た。基本、社会派映画と恋愛映画が交互にくる。一見両局面を思わせるそんな作品は彼の中ではきっと同じなのだ。大きな事件と小さな事件がこの世界を動かしていく。そういう意味では、この映画の中で描かれた裕次郎と樫山文枝による恋愛物語は息抜きではなかったのかもしれない。一見不要なものと思われたあのエピソードは余計なシーンではなく熊井監督の中でも必然だったのだ。