こういう地味な映画がちゃんと作られるって素敵だ。昔の木下恵介の映画を見ているような気分。心地よい。松竹は今でもこういう良心的な映画を作り続けている、と思ったが、実はそうではない。山田洋次門下の脚本家である平松恵美子監督作品なのに、これは松竹映画ではない。なんと自主制作に近い形で作られているのだ。これは驚きである。映画は2019年2月に公開された。大阪では確か梅田のステーションシティシネマで、ひっそりと上映されたはずだ。朝間義隆の『二十四の瞳』は松竹映画だったけど、あの映画とよく似たタッチの作品だから、僕は勝手に松竹映画だと思ったみたいだ。もう大手の映画会社にはこういう映画を作る余裕はない。寂しいことだ。公開から2年、映画はようやく最近になってアマゾンで配信された。
戦時中の疎開保育園の物語だ。もちろん実話をベースにしている。貧しくて暗い時代を描くのだけど、映像はとても美しく、子供たちを守る保母さんたちはとても生き生きしていて、自分たちの仕事の誇りを持っていて、きれいだ。身なりも清潔で、ちゃんとメイクもしていて、そういうところは嘘くさいけど、敢えてわざとらしい汚しをしないほうが彼女たちの気高さをちゃんと象徴していて反対にリアルだと思う。
疎開先の荒れ寺も、たった1日で、ちゃんと掃除ができ、あんなにきれいに修理できるわけはない。だけど、かまわない。この映画が描きたいところは、そういうリアリティではないからだ。きれいごとではなく、彼女たちの想いがちゃんと伝わることが目的で、貧しくて大変だったけど、こんなにも輝いていたことを伝える映画なのだ。何か月も、何年(実際は1年程度だったが)も、子供たちと一緒に暮らして、親御さんから大事なお子さんを預かり、育てる困難は計り知れない。しかも彼女たちはまだ結婚もしていない20歳前後の女性たちである。想像を絶する。だけど、それを彼女たちは成し遂げた。
戸田恵梨香と大原櫻子が主演した。彼女たちだけではない。たくさん若い女の子たちが保母役で出演している群像劇だ。そして、かわいい子供たち。大原が疎開先の園庭でオルガンを弾くシーンが素敵だ。そのエピソードがタイトルにもなっている。どんな時代であろうとも、子供たちは生き生きと生きている。そんな彼らを大人が守ることが大事だ。そのために一生懸命になる若い女の子たちの頑張りが眩しい。甘い作品だけど、それでいい。これはとても素敵な映画だった。