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映画・演劇のレビュー

『グッドバイ、バッドマガジンズ』

2023-01-26 11:04:41 | 映画

この映画の目の付けどころが実に素晴らしいと思った。こんな題材で1本の映画を作るのか、と感心もした。宣伝のチラシを手にしてそう思った。だからぜひ見ようと思い劇場へ。いつの間にかコンビニから成人雑誌がなくなった理由がこんなアホなことだったのかと教えてくれる。知らなかった。まぁ、それほど興味がなかった、ということなのだろうけど。でも、それによって大変な思いをした人たちは多数いる。成人雑誌ファンや、この映画が描く成人雑誌の編集者たち。政府のやることは安易でつまらない。

自分が志望していた女性誌とは正反対の男性向け成人雑誌編集部に配属されてしまった女の子が主人公だ。若い女の子がエロ業界にいきなり突っ込まれて、あたふたするさまを描く趣味の悪い映画、ではない。彼女は差別意識を持つことなく、素直にこの職場に入り働く。まだ大学出たての22歳(たぶん)の新人が、今まで知ることもなかった世界に投げ込まれて、真摯にエロと向き合うさまはなんだか感動的だ。そんな彼女のたった2年間の日々が軽快なタッチで綴られていく。

「オリンピック開催の歓喜の裏側で起きていたおかしくてかなしい実話の物語」というメインコピーが素晴らしい。最初に書いたとおりだ。だが、残念ながら、その大事な部分はこの映画は描けていない。オリンピックがまるでお話とは絡まないのだ。それはないでしょ、と思う。コピーに偽りありじゃないか、と。でも、必ずしもあのコピーはオリンピックの犠牲になった成人雑誌を描くとは言ってないから、これはこれでいいのかもしれないけど、そこは少し肩透かしだ。

弱者を切捨てる行政の問題なんてのは今までもいろんな社会派映画で扱ってきた。これはそうじゃない。弱小出版社の成人雑誌編集部を舞台にしたひとりの女の子の成長物語なのだ。長身で髭だらけの男が新人として編集部に入ってきたところから、いきなり先輩になった彼女の姿が描かれる。あの飛躍が凄い。新人から中堅までの推移はすっ飛ばす力技。でも、それは手抜きにも見えるのは、ご愛敬。映画はとても面白い発想で作られてはいる。でも、なんだか詰めが甘々で、せっかくの題材が生きない。低予算でゲリラ的に作られた作品だろうから、仕方がないのかもしれないが、3年間の取材で書かれたという台本は、もっと完成度の高いものを提示してもよかったのではないか。それは演出力のなさ(脚本、監督は横山翔一)のせいか。予算の少なさからか。なんだか惜しい。

主人公を務めた若い頃の和久井映見を思わせる杏花はよく頑張ってるけど、まわりのキャストが残念ながら力量不足で彼女をカバーしきれてない。(知らない役者ばかりにキャスティングはやはり予算のせいか)せめて成人雑誌の編集部に在籍しながら処女という彼女の微妙なポジションをうまくお話に取り込めたなら、お話に広がりができたはずなのだが、この脚本にそれだけの余裕はない。残念だ。

 


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