「この公演をもって、南船北馬の大阪公演はしばらくお休みいたします。」という告知がチラシのなかにあった。南船北馬一団の旗揚げからずっと棚瀬さんのお芝居を見てきたものとしては感慨深い。もう20年以上になる。
大阪で芝居を作ってきた彼女が新しい一歩を踏み出す。この作品はその初めの一歩となる。これは旅立ちの話だ。2人の男と4人の女たち。描かれるのは単純に、彼らが今いるところから新しい場所へと向かい始めるということではない。もっと大きな意味だ。こだわり続けることと、あきらめること。
どこかへと。人は今日から明日へと生きている。生きていかなくてはならない。いつまでもそこにいることは出来ないということはわかっている。だけど、なかなか踏み出せない。
火事で部屋が焼けてしまい、住んでいた場所から出ていかなくてはならなくなったふたり。火事の後、兄のところで居候している彼女と、ふらふらしている彼。(他の女と旅に出ている。)彼の姉はもう弟とは別れたほうがいい、と彼女にいう。
3年前から失踪している妻(恋人?)を忘れられない男。(この男と一つ目のエピソードの「兄」とは同一人物でそこでふたつの話は繋がる)彼女の姉からは、もう妹は死んだ、ということを認めて、と言われるけど、でも認めたくはない。このふたつのお話が交錯する。
最初はこの6人の関係性がわかりにくいから、少し混乱する。少しずつ明確になってくる。彼らの置かれた状況も見えてくる。そして、彼らがここから出て行くしかないということがはっきりしてくる。静かに一歩を踏み出すまでの彼らの心の葛藤がとても丁寧に描かれていく。そのいくつかの光景が描かれていく。それら短いエピソードの連鎖から全体像が見えてくるという仕掛けだ。わかりやすいストーリーなのだけど、それがとてもリアルで、心に残る。それは心象風景のようだ。そんな流れていく光景を見守りながら、彼らの「これから」を想う。大阪弁からスタートして標準語に変わることも含めてこのお話し自体の提示するものはある種の普遍性を指し示す。