18歳の大学生が高三の時に書いた小説。小説現代長編新人賞を受賞した作品だということだ。中学生が主人公。中2の終わりから卒業までを背景に5人の女の子を語り手にして描く。
バレー部の7人、とひとり。彼女たち8人の1年間。5つのエピソードは5人の語り手による。最初のふたりまで読んだところでなんだかありきたりの小説でガッカリかな、と思った。18歳が書いた14歳から15歳の日々。バレー部で頑張ったけど、勝てなかった悔しさ。
だが、次のエピソードを読み終えた後、これは違うなとわかる。3話目はバレー部を脱落して不登校になっていた少女が主人公だった。彼女が2年半振りに学校に行った日。ある日突然行けなくなった。最初は行かないだけ、だった。翌日行ってもよかったが、行かなかった。だから2年半。仕方ないから行くことにした。ちゃんと教室に入って1日を過ごした。そんな時間が描かれる。とてもスリリング。その翌日はどうしたかは描かれないからわからないけど、この1日は特別。
このエピソードを通して作品は大きく転調する。次の話もそう。きれいごとではない。嫌なことをちゃんと見つめて描く。仲良くなんかなかった。みんな大嫌いだった。だけど、ひとりは嫌だからいい子のフリをしていた。ズルく立ち回った。根回しまでした。そこには、そんな屈折した想いが描かれてある。
そして最後のエピソード。ずっと真面目で校則を破らない「いい子」が初めてルールを破る卒業式の日。彼女の辛かった気持ちは彼女だけではなく、8人みんなも心に抱いていたことだ。彼女たちだけではなく、他のみんなも、また。主人公としては描かれない3人も含めて、彼女たちの物語は中学生という複雑な時間を鮮やかに切り取る。
僕は中学が嫌いだ。あんな日々は忘れたい、と思う。これを読みながらあの頃の悪夢がよみがえる。別に虐められていたわけではない。ただ、自由じゃなかった。僕もまた彼女たち同様辛かった。
だから、高校生になってよかった。僕が高校が大好きで、大学卒業後すぐに高校に戻って40年間過ごしたのは、あの頃の幸せを永遠に生きたかったからだ。高校生活がたった3年だけだなんて、嫌だったからさらに40年過ごして卒業した。
今、高校を卒業して60代を迎えたけど、この小説を読んで、悪夢の中学生時代を思い出した。でもあそこからいろんなことが始まったんだと改めて思うことができた気もする。