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映画・演劇のレビュー

山本渚『吉野北高校図書委員会』

2015-03-28 22:35:52 | その他
これを読みながら、こそばゆいような、恥ずかしいような、隠しておきたい自分だけの秘密の部屋を覗かれたような。昔々のお話で、自分が子供の頃のあこがれを形にしたような。きっと高校生くらいの時の僕が夢見た(あこがれた)風景がそこにはある。少女趣味で人には言えない。でも、ひそかに思い描いた理想郷。でも、今の十分すぎるほど大人になった自分にはそれはもう照れくさいし、素直にその世界を受け入れられない。ないわぁ、と思う。だからこそ、なんだか、それはとても哀しい。

子供のころに感じた理想の高校生活。ありえないほどに、夢想ではないけど、現実はそんなにも甘く切ないものではない。これはきっと夢の中だけのお話。等身大に限りなく近い夢物語。

吉野北高校の生徒だったらよかった。そこで図書委員会に所属出来たなら、どれだけ幸せだろう。でも、そんな夢の場所はない。だからこそ、憧れる。出来ることなら、ずっとそこにいたい。そんなふうに思ったのは、僕だけではなく、まず作者の山本渚であろう。彼女は、自分の高校生活をそこに投影した。だが、これは現実ではない。もしこんなふうであったら、どれだけ幸せか、と夢見て書いた。書きながらこの世界でまどろんでいたはずだ。僕たちがこれを読みながら、まどろんでいたように。

川本かずらと藤枝高広の恋を3章仕立てで描く。かずら、高広、そして、再びかずら、という段取りだ。かずらは、武市大地のことが好き。でも、それは恋愛ではない。もっと親密で幼いもの。ふたりは似た者同士。同じ価値観を持つ。だから、兄弟のように付き合う。高広はそんなかずらを好き。大地がひとつ下の女の子と付き合いだした。それを祝福する。でも、なんだか、そこには嘘がある。そのことを一番強く感じたのは、かずらではなく、高広だ。

こういうとてもわかりやすいお話。200ページほどの薄い小説の中で、職場との往復2日もかからないくらいの時間で、読み終えれる。

徳島の方言が優しい。自分が昔、まだ、本当の子供だった頃、住んでいた町の匂いがする。書かれた言葉の響きがちゃんとわかる。自分のふるさとのことばだから。でも、それは記憶の底に沈んでしまったものだ。生まれた時から、物ごころつくまでしか、そこでは過ごしていない。親の都合で大阪に出てきて、祖父母が死んでからは法事でしか帰らない。そんな幻の町の記憶がこの小説の中にはある。個人的な感慨がこの小説を必要以上に身近なものにする。

最初は、これはないわ、と思いつつ、だんだん、これでいいよ、と思いつつ、読み終えた。もちろん、翌日には2巻も3巻も借りてきてしまった。ちょっとした禁断の書。はまる、とまではいかないけど、この心地よさは癖になりそうだ。

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