これはきついわぁ、と思った。夫婦の問題で、とても個人的なことなのに、まるで自分に対して言われているような、それくらいに描かれるいろんなことがガンガン突き刺さってくる。ずっと一緒にいて、自分の最大の理解者であったはずの妻のことを、ぞんざいに扱い、だんだん煙たがってしまい、距離を置いていく夫。あげくは、若い女と浮気をして、妻を蔑にする。愛が醒めたわけではない。まるで、保護者のような顔をする彼女を疎ましく思ってしまい、作家として確固とした地位築いた今(彼女もヘアデザイナーとして自立している)別々の個として、ただ同居しているだけの関係になっている。
そんな妻がバス事故で死ぬ。彼は妻の死を上手く受け止められない。何も感じない。冷酷だからではない。何の感慨もない自分に自分自身が驚いている。何をどうしていいのか、それすらもわからない。これは、そこから始まる物語である。
同じバスに乗っていた妻の友人(ふたりで旅行に来ていた。彼女の親友なのに、彼はその存在を知らなかった。もちろん、女性)の夫は、感情をむき出しにして泣きわめく。その後、当然それまで全く知らなかったその夫と(彼は、自分のことを知っている)交流することになる。彼とふたりの子供たちを通して自分にとって、家族とは何だったのか、妻とはどういう存在だったのかを知る。自分に欠けていたものに気付く。妻の愛に包まれていたのに、彼女を受け止めることが出来ず、彼女に寂しい想いをさせて、死なせてしまったことに気付くまでのドラマだ。
西川美和は男に対してとてもいじわるだ。しかし、バカな男に対してはこれくらい言わなくてはならない。たぶん彼らはそれくらいしてもわからないのだろう。(僕も含めて)読み終えた時、大切なものを守るためには何が必要なのかを教えられた気がした。
この秋、映画化作品が公開される。もちろん、監督は彼女自身だ。彼女は自分のオリジナル映画の原作小説を自分で書く。深津絵里が妻を演じるらしい。そのキャスティングだけで、昨年一番の傑作映画『岸辺の旅』の姉妹編のような気がする。きっと、今年一番の映画になることだろう。