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映画・演劇のレビュー

『燃ゆる女の肖像』

2021-01-01 08:36:31 | 映画

圧倒的な静謐に包まれた2時間。ふたりの女が向き合い、やがて恋に落ちる。たった6日間の出来事が描かれる。ほとんど台詞はない。舞台となる島には何もないし、誰もいない。お屋敷と、海辺だけ。そこに主人公のふたりがぽつりといる。屋敷には娘の母親と身の回りの世話をする女性だけ。だから登場人物はほぼその4人だけ。

娘は修道院から実家である島に戻された。彼女は、結婚させられるために帰ってきた。画家の女はそんな彼女の肖像画を描くためにこの島にやってきた。肖像画は結婚相手に贈られる見合い写真代わりのものらしい。娘は肖像を描かせることを拒絶する。画家の女はそんな彼女と向き合い、少しずつ心を通い合わせる。娘の母親が不在の6日間で肖像を仕上げることになる。

前半はふたりが過ごす静かな時間。女は娘に内緒で肖像画を描く。やがて、1枚の肖像画は完成する。だが、娘から「これは私ではない、」と言われる。そこから始まる後半はもう一度、今度は真正面から彼女と向き合う日々の中でふたりの一瞬の恋が始まる。

これを恋の物語だと、簡単に書いたけど、こんな恋の物語もあるのか、と驚かされる。わかりやすい説明ができない。一応そんなふうに書くしかないけど、説明ではこの感触は伝わらないだろう。ふたりのしぐさや、表情。無言のやり取り。描かれるのはそれだけだ。そんな彼女たちの2週間ほどの時間が永遠のものとなる。ことばではないものがこんなにも胸を打つ。

別れた後の時間が描かれるエピローグの2つのエピソードが象徴的だ。そこでは、別れた後の最初の再会と、最後の再会が描かれる。そこでふたりが直接向き合うわけではない。それまでの時間との対比が素晴らしい。結婚して大人になった娘の表情を長回しでずっと捉えるラストシーンは素晴らしい。ここまで長く見せ続けるのか、と驚かされるほどだ。従来のパターンはそこにはない。こんなにもシンプルなお話なのに、わかりやすい物語と遠く離れた彼女たちだけの永遠がそこには描かれる。

たまたまこれが年内最後の映画になった。2020年最初の映画がポン・ジュノの『パラサイト 半地下の家族』だったからカンヌ映画祭の1位、2位が、この1年の最初と最後の2本になった。別にそこには何の意味もないけど。


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