神原さんの9月公演。今年もちゃんと年4回の公演をこなす。予定通りに。今回の秋公演はしっとりした芝居で、まさかの誰も死なない芝居である。しかも時代劇なのに。
幕末の大阪を舞台にした斬り合いもない人情劇。だが、そこには確かにいつも通りの死の匂いがしている。別れ別れになった父と子の再会。同じように別れ別れになった兄と妹の再会が重なっていく。しかも、その両者は別のふたりではなく、同じひとりだ。息子と兄は同じひとりで、彼はひとりでふたつの立場を体験する。その主役を城戸隆が演じる。島上とおるが父を演じ、目が見えなくなった妹を野田夏乃子が演じた。妹の野田が素晴らしい。兄への一途な想いを体現した。
それにしても、神原さんがこういう切ないラブストーリーを作るなんて意外だ。今回敢えて誰も死なない芝居を作った覚悟はしっかりと伝わってくる。ここではまだ、誰も死なさない。そんな瞬間をラストで見せる。