12年かけて1本の映画を作った(『6才のボクが大人になるまで』)リチャード・リンクレイター監督が、それ以上の歳月(18年)をかけて取り組んだ3部作の完結編。いや、そうではない。まだこれは進化形かもしれない。
第1作の『ビフォア・サンライズ (恋人までの距離)』(95)で、ウィーンで出会った2人が、『ビフォア・サンセット』(04)ではパリで再会する。それからさらに歳月を積み重ね、とうとう中年の域に達する。そんな彼らのギリシャでの休暇を描くのが本作だ。
前2作とおなじパターンだ。短い時間での2人の会話だけですべてを表現する。今回は空港での息子との別れ、自動車の中、友人の別荘でのランチ。そしてホテルに行く道すがらの親密な時間。ホテルの部屋での諍いまで。これでも前2作よりは、変化があるかも。時間も1日と長いし。
1作目は、出会いから別れまでの1日の物語。次の2作目なんて、飛行機が出るまでの短い間だけ。9年振りに再会し、2人は秋のパリを歩きながら思い出を語り合う。映画内の時間と、映画の上映時間が一致するというパターン。だから、この2作と較べると、今回はまだ、変化があり、長い。でも、朝から深夜までの1日の話だから、翌朝までを描く1作目よりは短いか。
9年後、さらにその9年後。ということは、まだ、この9年後の50代に突入する2人を描く4作目は十分にあり得る。
前2作以上に今回の作品が心に沁みたのは、彼らがもう若くはないからだ。20代になったばかりの恋人たちの切ない恋が、30代になったばかりの大人の恋に、さらには40代になったばかりの壮年の恋へと、時間を経て、そんな彼らの成長を経て、それでも変わらない人生の真実に挑む。監督のリンクレイターと、主演のイーサン・ホーク、ジュリー・デルビーの3人が話し合いながら一緒に脚本を書き、映画を作るというスタンスが素晴らしい。しかも、撮影はいつも15日。(ウイキペディアに書いてあった)そういうスタイルから入るのも好き。
あんなに仲よく喋っていたふたりが、ささいなことから、大喧嘩になり、でも、再び仲直りする。ありきたりなパターンだと言われるとそれまでなのだが、そこにこそ真実がある。短い時間のスケッチを通して、その背後に流れる膨大な時間すら感じさせるのが素晴らしい。なんでもない会話がただ延々と続くだけなのに、スクリーンから目が離せない。
12年間毎年7日間ずつ撮影したという『6才のボクが大人になるまで』とこの映画の2本で、リンクレイターは(僕にとっての)今年の最優秀監督になった。