始まってから、20分全くセリフがない。登場人物も2人。祖父と孫娘だけ。川に出来た中州に小屋を建てるところから始まる。そしてとうもろこしの種をまき、黙々と作業する。映画は彼らが働き続ける姿を撮るばかりだ。全編を通しても、9割以上がセリフのない映画だ。こんな映画は見たことない。そしてストーリーもほとんどない。
『みかんの丘』と同じようにジョージアでの戦争を描く作品だが、こちらは全く何かを主張するわけではない。ただ事実を見せるだけ。ここまで説明を排除した映画はなかなかない。新藤兼人の『裸の島』を想起させる。2人の背景も、少女の両親が死んでいること以外、何もわからない。彼らの家がどこにあり、どういう生活をしているのかもわからないし、ここでとうもろこしの収穫することが、彼らの生活にどういう意味を持つかも定かではない。そして、ラストの悲劇もカメラは引いたまま、とても静かに描かれる。全編この調子だし。
傷ついた兵士をかくまうことも、それが2人の生活に与える影も、映画の重要な要素にはならない。映画は、このドラマを貫く確固とした意志のもと、揺るがない。神の視座に立ち、客観的に起きたことを見つめるだけ。この映画はまるで神話のようで、ゼロから始まり、ゼロに還る。そのあまりのそっけなさに衝撃を受ける。
この映画ほどではないけれど、同じ日に見た、廣木隆一監督の『夏美のホタル』もそっけない映画だった。彼も、単純なストーリーをそのまま見せるだけ。こんなにもさりげなく見せて、1本の映画として成立させるのは至難の技だろう。ストーリーにメリハリをつけず、オーバーアクトも、もちろん排除、それでこんな簡単なストーリーだけで1時間48分の映画にする。それでいてちゃんと素直に感動させる。写真家を目指す女の子が人生の選択を迫られる。いつまでも夢を追いかけていていいのかと不安になる。同じように夢を追いかけ死んだ父親との想い出の場所に行き、自分を見つめ直す。それだけのお話。秀作だとまでは言わないけれど、廣木監督らしい小佳作。
『ツオツイ』のギャビン・フッド監督による『アイ・イン・ザ・スカイ』も見た。この3本をレンタルしてきて、連続で見たのだが、なぜか、3本がちゃんと繋がっている。この映画のタイトル通り、状況は全く違うけど、3本とも「神の眼」から映画が見られている。
これは現代の戦争をリアルタイムで描く映画だ。『ドローン・オブ・ウォー』と同じ設定なのだが、こちらは、もっとスケールが大きい。あるテロリストを阻止するために、どれだけの時間とお金と人間が動いているかをドキュメンタリータッチでリアルに見せていく。そして、焦点は1人の少女の命とテロリストによって殺されることになるたくさんの命を両天秤に掛け、どういう選択をするのかということを描く。その少女がフラフープで無邪気に遊ぶ姿を捉えた冒頭の部分から、作戦が発動し、集結するラストまで、ヒリヒリする緊張感を持続させ、一気に見せる。