ムーティ/ウィーン国立歌劇場「モーツァルト ドン・ジョバンニ」


 1999年6月のウィーンでのライブ映像です。ムーティにはウィーンフィルとのスタジオ録音、スカラ座でのライブ映像もあるので、演奏は想像できたのですが、今、最も高水準のモーツァルト演奏を期待できるコンビの新譜、シモーネの演出もセンスのよいものと読み、手に取りました。
 マイルスの大量購入でポイントカードが満点になったこともありました。こういう値引きを使う場合は、通常控えてしまう少し高いディスクを買いたくなります。

 ドン・ジョバンニは、どうしても1987年、1988年のザルツブルク音楽祭でのカラヤンの演奏と比べてしまいます。その際のドキュメントである「カラヤン・イン・ザルツブルク」を見ると、カラヤンが名歌手達のちょっとした表情、仕草にも細かく注文を付けます、大物演出家のハンペが怒られます、取り巻きがお世辞を言いつつ寄り添います、カーテンコールでも観客ではなくカラヤンのご機嫌を伺っています、とにかく関係者全員がカラヤンを見て仕事をしています。
 それでも、それでも素晴らしい音楽でした。全編映像も観たし、海賊盤の演奏も聴きましたが、冒頭の序曲から緊張感が張りつめて吹き飛ばされそうです。分厚くてスケールの大きな迫真の音楽で、歌手も揃っています。

 晩年のカラヤンと比べると相手が悪すぎるのですが、ムーティも衒いのない純音楽的で躍動感のある演奏です。
 歌手については最近疎いので、ツェルリーナ(ゼルリーナと表記されていました。最近は変わったのでしょうか。確かに発音はゼルリーナと聞こえます。)役のキルヒシュラーガー以外は初めて聞いたのですが伸びのある力強い歌声で高水準です。

 見所はシモーネによる演出、美術です。場面ごとにヨーロッパのどこかのの時代のどこかの街の風景、服装に替わっていきます。第1幕は中世のスペイン風、フランス風、ギリシャ風など。第2幕は19世紀に入ったり、またロココ調に戻ったり、時代を超越したテーマであることを演出しているのだと思います。観ていて面白い反面、若干散漫な印象も受けました。
 少し気になったのは、ワザと厚めの化粧にしているのではないと思いますが、映像がクリアなこともあり、それぞれの歌手が実際の歳相応の顔付きに見えます。ツェルリーナも村娘というより熟女に見えます。

 全体的にはモーツァルトのめくるめく珠玉のメロディ、美しくて優しい旋律を楽しく聞かせ、見させてくれます。文句のない歌手、素晴らしい演出であれば、後は楽譜が最高級品なので3時間もあっという間です。

 ムーティには、評判のモーツァルトに加えて、ヴェルディ、ロッシーニといったイタリアものも思う存分、ウィーンで演奏してほしいものです。


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