チャド・ハーバック「守備の極意」(土屋政雄訳)

        


 またまた土屋政雄翻訳で知ったアメリカ人作家の小説、予備知識なくキンドルにダウンロードしたのですが、夢中になって読みました。ホームラン級の面白さです。


 こんなに爽快でアメリカらしい小説を読んだのはいつ以来だろうか。原題は「ジ・アート・オブ・フィールディング」。グラブさばきの芸術とも訳せるでしょうか。守備の極意という苦渋の訳にも泣けます。
 田舎育ちの地味な天才ショートストップが大学に入り、その上手さが話題になり、スカウトが押し寄せるようになる。夢の大リーグまで届くのか・・・単純な野球の物語かと思いきや(それでもよかったですが)、そうではなく、いろんな人間ドラマが同時に立ち上がり進行します。
 スポーツ、大学生活、恋愛、人生の哀しさなどなどこれぞ青春小説です。こういう本を読みたい。


 ウイスコンシン州の架空のウェスティッシュ大学野球部を舞台に繰り広げられるこの物語の背景には、メルヴィルの名作「白鯨」が影の脇役として存在しているのですが、タイミングよくすごく評判のよい新訳版が岩波文庫から出ていたので、「白鯨」と「守備の極意」を交互に読み進めるという幸せな読書体験ができました(キンドルだからこそ出来る家内外での交互読み、本当に便利です)。


 余談となりますが・・・職場に新入社員が入ってくると、懇親会とかどこかのタイミングで卒業旅行はどこに行ったのという話題になります。最近多いのは、東南アジアや仲間で国内の温泉巡りをしたというものです。
 自分がたまたま経験した選択を良しとする考え、他人も自分同様にすべきだという傲慢な発想は避けるべきだと重々承知の上で、最近の若者に大きな声で言いたいのは、「若いうちにアメリカに行っておけよ」ということです。


 私は逆に東南アジアに行ったことはなく、また、親しい友人と温泉巡りをして友情を深めた経験もないのですが、アメリカの広大さ、自然の美しさです。そして、アメリカ人の明るさ、フレンドリーな親しみやすさ。ただ、そこそこ知ると、いろいろと感じるようになる人種差別の根深さなど。日本にいてはアジアにいてはおそらく体験できないスケールの大きな異文化があります。
 なんて素晴らしい自然、人間、文化だろう。いろいろと深刻な問題を抱えていること、問題の発生源となっていることも承知していますが、それでもアメリカは地球上で最も憧れる尊敬する素晴らしい国です。


 私は普段ほとんど野球を観ないので、偉そうなことは言えませんが、いくつか拘りはあって、野球は、太陽の下でするもので、ドーム球場なんて愚の骨頂、野球は屋内スポーツなのか、アホかと突っ込みたくなります。私はニューヨークのシェスタジアムしか経験はないのですが、アメリカの野球場の開放感、芝の美しさは最高です。


 最近の飛行機事情は分からないのですが、正直、狭いエコノミー席に座っての搭乗12~16時間はかなりしんどいです。海外旅行のハードルの一つ。ビジネスクラスに座れるようになれればいいのですが(私は一度も経験がなく、ささやかな人生の目的の一つです)、何十万円という出費は、家族もいると簡単ではないと思います。若くて体力がありエコノミー席の狭さに我慢できるうちにアメリカに行っておくべきです。絶対に絶対に生涯忘れられない体験を得られます。
 この小説を読みながらアメリカの素晴らしさを思い出していました。中年男性の余計なボヤキでした。
 

 いろいろと切ない展開がありますが、最後は本題の野球でクライマックスへ。どうなるか、ハッピーエンドだと思うけど、さて・・・。


 打って、捕球して、ファーストに投げる、これがどれだけ美しい行為で、そして難しい行為になるのか。野球賛歌です。
 

 小説の中に村上春樹の本が登場します。私は随分長く村上春樹の小説から遠ざかっているのですが、こういう使われ方をするとは、評価、人気は本物なのでしょう。
 「生まれて初めて給与小切手をもらった記念に、大学書店で買ったムラカミの新作だ。」「五十ヤードほど歩いてから本を落としてきたことに気づいた。」


 読書の喜び、本の愉しさ、幸せな時間。自分は体験できなかった世界だけど心で共有できる嬉しさ、終わりが近づく寂しさ。そして、メルヴィルの「白鯨」はじめいろいろと関心が波及する多様さ。正真正銘の最高の一冊です。


 ただし、一点だけ問題が・・・1冊2400円もします。上下で5千円弱。早川書房はもともと高いですし、結果いい本だったので納得できますが、5千円はちょっと高いです。権利の関係なのか、出版不況の影響か、普通なら値段を理由に敬遠されてしまいます。





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田部京子「ベートーヴェン ピアノ・ソナタ 第30番 第31番 第32番」

           


 週末なので銀座山野楽器のクラシックコーナーをぶらっと見て回って何もないなと帰ろうとしたところ、出口の脇に田部京子の新譜が大きく積まれていました。


 大好きなピアニストによるベートーヴェンの30番、31番、32番。コンサートでも聴いたし、耳の幸せは鉄板のディスクです。後期ソナタ集は多くのピアニストによるものを持っていますが、日本人では内田光子以来だと思います。この演奏は珍しく覚えていて、湖の畔をとぼとぼ歩いているようないろんな情景が浮かんできて、内田光子の魅力を認識したものでした。


 残響の少し長い録音。気持ちゆったりしたテンポの思索的な音楽。たっぷり間を持たせたりとこれまであまり聴けなかった表情付けもあり楽しいです。研ぎ澄まされた中太タッチのいい意味での無色なピアノが特徴だと思うのですが、単なるベートーヴェンの楽譜の再現ではなくて、田部京子の姿がうっすらと見えてくるようです。


 楽想から瞑想的ですが力強い若々しさもある演奏です。以前、渋谷タワーレコードでのミニコンサートで晩年の作品は枯れているのではなくてこれまでの人生が全て詰まっている音楽だと話していたのを思い出しました。


 始めは耳を澄まして注意深く聴いていたのですが、数年前、浜離宮ホールで30番(31番だったかも)を聴いていた時に感じたのと同じように、どういう演奏だとかそういう捉え方はどうでもよくなって、音楽にどっぷり浸かって、何か昔のことを思い出したり、このまま眠ってもいいなと思いながら聴きました。


 素晴らしい演奏です。山野楽器のCDには、2/1のサイン会の券が付いていました。



          



 12月5日、浜離宮ホールでのベートーヴェン&ブラームスのリサイタルの券も予約できました。23番「熱情」、32番、ブラームスの3つの間奏曲、とても楽しみです。





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「ケーニヒスクローネ」(日本橋高島屋)

 


 きっかけは紙袋です。先日荷物の持ち帰りのためにたまたま手に取った紙袋、建物を映した洒落た感じの白黒写真。これは何だろうと思いながら帰宅して眺め直したところ、写真の端に店の名前らしき看板「ケーニヒス クローネ」とありました。


 初めて見た名前なのですが、調べたところ神戸にあるスイーツを売っている喫茶室。高級感があるんだけど、値段はそんなに高くなく、コーヒー、紅茶などの飲み物はセルフサービスというちょっとスタンスの変わった店で神戸には数店舗あり、広く親しまれているとありました。


 東京・横浜でも、高島屋に支店があったので、日本橋の高島屋に出掛けました。人気のありそうなクローネ(110円×5本/ここでは14時からの販売)、ベルリンという名のプリン(250円×4個)、栗入りのチョコレートケーキ「はちみつアルテナ」(小ホール1300円)を購入しました。これだけ買って3078円、キルフェボンなら4ピースでもこの位の値段になるので安く感じました。


          
          
          


 どれも美味しいです。手堅い甘みと満足感。事前にネット上で読んだ少しがっかりではありません。最近のスイーツはどれもとても値段が高いのでどんなにおいしく感じても次回があるかどうか微妙なことが多いのですが、ケーニヒスクローネはコスパよし。神戸での人気も納得です。





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