心の風景

晴耕雨読を夢見る初老の雑記帳

まずは「郷に入っては郷に従え」と。

2016-08-13 10:07:34 | 四国遍路

 立秋を過ぎたというのに本当に暑い日が続きます。晴耕雨読といっても、この暑さでは昼間に畑に出るわけにもいきません。朝夕の水撒きが日課になってしまいました。
 そんな夏の盛りに、四国八十八カ所お遍路の旅(第2回)に行ってきました。今回は、徳島県の切幡寺、藤井寺、法輪寺、熊谷寺、十楽寺の5ヶ寺。印象に残ったのは最初に尋ねた10番札所得度山切幡寺です。バスの停留場から山道を300メートルほど歩いたあと、333段の石段を登った標高150メートルほどの山の中腹に、お寺はありました。本尊は千手観音です。お線香の匂いと蝉しぐれに包まれた境内で般若心経を唱えました。
 大師堂の横に、右手に鋏、左手に布を持った女性の銅像「はたきり観音」があります。縁起によれば、山での修行を終えた弘法大師が、機(はた)を折る女性の家に立ち寄って布切を懇請したところ、女性は惜しげもなく断ち切って与えたのだとか。それに感心した大師は、女性の願いを聞き入れ、彼女を得度(出家)させ、即身成仏(人間が肉身のままで究極の悟りを開き仏になること)して観世音菩薩になったのだと。その姿は住職すら拝んだことがない秘仏となっているのだそうです。なんとも不思議なお話しですが、このお寺には弘法大師が刻んだ像と女性が即身成仏した像のふたつの観音菩薩が安置されています。こういう縁起が千数百年にわたり語り継がれていることに、「信じる」ということの現実を垣間見た思いがいたしました。
 そのあと、石鎚山を源流とする大河・吉野川を渡って、金剛山藤井寺に向かいました。大師がお手植えしたと伝えられる藤の古木があり、それが寺の名前の由来でもあります。薬師如来が祀られた本堂の、雲龍の天井画が印象的でした。境内の端には9月に訪ねる予定の焼山寺に通じる「遍路道」の古道がありましたが、歩くと8、9時間はかかる難所なのだそうです。
 次に正覚山法輪寺に向かいました。ご本尊は、八十八ヶ寺のうち唯一の涅槃釈迦如来でした。煮えたぎるような炎天下にもかかわらず、ずっとお経を唱えて修行されているお遍路さんに出会いました。門前では、草餅を売るお茶屋さんが人気のようでした。周囲には田圃が広がり、タバコ畑もありました。
 普明山熊谷寺では、まずは立派な多宝塔がお出迎えです。千手観音が祀られた本堂にお参りしたあと、石段を登って大師堂へ。そこに祀られた弘法大師坐像は室町時代の作だとか。千数百年の時を経ると、どこのお寺も火災にあったり戦火にあったりで、たいへんな時代を生きてきました。このお寺も例外ではなかったようです。復興にあたっては多くの篤志家が支えたようで、この地のご出身である三木武夫氏のお名前もありました。
 この日最後に尋ねたのは光明山十楽寺でした。本尊は阿弥陀如来。本堂、大師堂とお参りして、その日のお勤めは終了しましたが、境内に眼病、失明した人たちの治療に霊験があるとされる「治眼疾目救済地蔵尊」がありましたので、先達さんの教えに従い、裏面に「め」の字を歳の数だけ記したお札を納めました。このあたりになると、科学的合理性からはずいぶんかけ離れた世界に入り込むことになりますが、まずは「郷に入っては郷に従え」です。なりきることに徹しました。今回から、白衣の上に霊場巡拝の正装具「輪袈裟」を着けて参拝しました。
 最近、図書館で借りてきた「知識ゼロからの空海入門」「面白いほどよくわかる般若心経」を眺めています。私のような素人向けに262文字の般若心経の背景と言葉の意味を解説したものですが、絵を用いた平易な説明ではあっても私にとってはまったくもって異次元の世界です。諸行無常(この世のありとあらゆる存在と現象は、つねに生成と死滅という変化を繰り返している)、諸法無我(いかなる存在も永遠不変の実体を有しない)。色不異空、空不異色、色即是空........。速読に自信のあった私ですが、この本に限っては、1頁を理解するのに相応の時間を要します。今回から経本を見ながらも途切れることなく般若心経を唱えることができたのは、こうした日々のお勤め(?)があったからなんでしょうか。(笑)
 話題を変えます。11日から16日までの間、京都・下鴨神社の糺の森で、京都古書研究会主催の第29回「下鴨納涼古本まつり」が開かれています。蝉の声を聴きながらひんやりした木陰でのんびり選書を楽しむ。路の両側に38店舗が店を構えていますが、片道1時間、往復で2時間かかりました。最後はテント張りの喫茶コーナーで冷たい缶ビールをいただいて帰りました。
 ちなみにこの日手にしたのは、宮澤淳一訳「グレングールド発言集」。探していた本でした。定価5500円を3500円でのお買い上げでした。ほかに、京都新聞社編「能百番を歩く」、ジョナサン・コット著「さまよう魂~ラフカディオ・ハーンの遍歴」、ドナルド・キーン著「古典を楽しむ」など。暑い夏の夜、冷房の効いた部屋で、読書を楽しむ。贅沢な時間です。

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