今年も8月4日から6日の間、高野山夏季大学に行ってきました。市民講座の先駆けとして1921年(大正10年)に開講以来、戦争とコロナによる中止を乗り越えて97回目を数えるこの講座は、毎日新聞社と総本山金剛峯寺主催で、高野山大学松下講堂黎明館で開かれました。参加者はおよそ600名。全国からお越しになっていました。ほぼ私と同世代のシニアの皆さんです。 講師は多士済々で、初日は料理研究家の土井善晴さん、元陸上選手の為末大さん、二日目は大阪市立美術館館長(奈良国立博物館前学芸部長)の内藤栄さん、小説家の浅田次郎さん、バイオリニストの前橋汀子さん、俳優の市毛良枝さん、最終日は京都大学教授(素粒子物理学)の橋本幸士さん、東京大学名誉教授(先端科学技術研究センター前所長)の神﨑亮平さん、という顔ぶれでした。
印象に残っているのは、「宇宙を支配する数式」をお話しになった橋本先生のご講義でした。素粒子のふるまいを一つの数式で表すという私にとっては全く無知の世界ですが、無知だからこそ分からないままに聴き入ってしまいました。写経のように書き写してみてくださいとおっしゃっていましたが、数式の意味はまったくもって意味不明。でも、その数式によって物事が動いている不思議。
こういう若い方々がこれからの日本を担っていくのだろうと思いました。先生は湯川秀樹先生の研究室の8代目の教授で、まだ50代の若手研究者です。第二次世界大戦で中断後に復活した第22回(1946年)に湯川先生が講師としてお越しになるところ急病のため中止となり、77年後にその後継の先生がご講演をされたことになります。ちなみに、第22回夏季大学には、私の恩師でもある田畑忍同志社大学学長が「憲法と民主主義」について講演しています。
このほか、浅田次郎さんはもちろんのこと、冷戦時代の旧レニングラード音楽院に留学され、その後アメリカ、スイス、ドイツで学んだ世界的なソリスト・前橋汀子さんの生き仕方にも感銘を受けました。講演の最後には、バッハの「シャコンヌ」を演奏していただきました。また、「登山を知って見つけた自分らしさ」についてお話しになった市毛良枝さんのお話にも多々気づきをいただきました。 2日目は昼食を挟んで2時間ほどオプション企画(阿字観入門、写経会、山内見学)がありました。私は今回も「阿字観入門」を選びました。高野山大師教会大講堂で、セミの鳴き声だけが聞こえてくるなかで、しばし心を整えました。と、言いたいところですが、朝方の寒さに寝冷えをしてしまったようで、体調がすぐれません。終わってから山内見学に合流しようと思いましたが、炎天下でそれも適わず、今回は西行が30年近く通っていたという三昧堂をお参りして帰りました。三昧堂の傍らには今も西行桜とよぶ幾代目かの桜の古木が立っていました。
今夏は例年以上に暑い夏を迎えています。1年ぶりの高野山でしたが、日中でも29、30度。朝夕は24,5度。朝方には20度を下回る涼しい場所にあります。宿坊には、もちろんクーラーはありません。網戸越しの冷気で十分涼しく、子どもの頃を思い出したんでしょう。傍で布団をかけてくれる母親がいるわけでもなく、そのまま眠ってしまいました。案の定、目覚めた頃には風邪の症状が出て、その後一昨日まで少し辛い思いをいたしました。この歳になって寝冷えするとは。それでも朝の勤行を済ませ、朝食をいただいて会場に向かいました。一人部屋に泊まったので食事処も一人部屋です。体調を崩していたので、梅干しのなんと美味しかったことか。
8月に入って、NPOの仕事を含めて1日から7日まで出ずっぱりの日々を過ごしました。さすがに老体には少しきつかったようです。しばらくゆったり過ごそうと思いますが、今週末からは横浜の孫娘が帰ってきます。そして、私の誕生日も直ぐそこまで迫っています。こんな暑い日に私は生まれたのでした。いや、昔はもっと涼しかったように思います。