りきる徒然草。

のんびり。ゆっくり。
「なるようになるさ」で生きてる男の徒然日記。

ダルマ、じゃないけれど。

2024-03-15 | 家族
最近、ウィスキーを呑んでいる。

・・・と言っても、寝る間際に水で薄ーーーく割ったのを一杯だけ。
とどのつまり、睡眠導入剤の代わりのようなもんだ。

元々アルコールはそれほど強くないし、上記したような目的のウィスキーだから、銘柄にも別に拘りはなく。
今、呑んでるのは写真の通り、トリスのミニボトルなのだけれど、これも妻が買い物の時に買ってきたもの。
妻もワタシがお酒に対して無頓着なことは、よーーーく知っている。
適当なお酒を与えておけば良いと思っている。
だからこれは、行きつけのスーパーで一番安いウィスキーだったのだろう(笑)


          ◆



ウィスキーを口にすると、なぜか遠い昔のことを思い出す。

実家の台所。
食器棚(母や一緒に暮らしていた祖母は“水屋”って呼んでいたな)・・・その棚の隅にひとつの瓶が置かれていた。
その丸いシルエットが、子どもだったワタシが見ても可愛らしく愛嬌を感じる瓶だった。

「これ、何?」

と言いながら小学校低学年だったワタシがその瓶に手を伸ばすと、

「それはお父さんのお酒だから、触ったらダメ」

と、炊事をしていた母がワタシにそう注意した。

見覚えのあるラベルが貼られていた。
テレビのコマーシャルで流れていたので知っていた。
おそらく、映画が好きだった父と一緒に見ていた「月曜ロードショー」とか「水曜ロードショー」とかで流れていたのだろう。
商品名までは分からなかったけれど、そのコマーシャルのおかげで、それが「サントリー」というメーカーだということだけは、当時7歳前後のワタシにも分かった。

だが、父がそのお酒を水屋から出して呑んでいる姿を、ワタシは一度も眼にしたことがなかった。

父の晩酌のお供は、もっぱらキリンのラガービールだったし、その上、父もワタシと同じDNAの人だったので、瓶ビール1本空けると、「あー、酔ってしもうた」と言うほど酒に弱い人だったから、テレビのコマーシャルの中の男の人のようにカッコよくウィスキーを呑んでいる姿を想像することができなかったのだ。

ホントはお酒じゃなくて、ジュースが入ってるんじゃないか?

ある日、誰も台所がいない時に、こっそりその丸い瓶を開けたことがあった。
開けて瓶に顔を近づけたら、今まで嗅いだことがない異様な匂いが鼻腔に入り込んできて、慌てて咄嗟にキャップを閉めた記憶がある。

今思えば、それは明らかにウィスキーの匂いだったのだけれど、当時のワタシには、その匂いがとても人間が口にする飲み物とは思えなかった。

そしてもうひとつ思い返せば、その時、瓶のキャップは子どものワタシでも簡単に開けられた。

つまり、その瓶はすでに開いていたのだ。

ということは、おそらく、あの瓶は本当に父のもので、そして本当に父はその中の飲み物を呑んでいたのだ。

異様な匂いが鼻の内側にこびり付いた幼いワタシは、瓶の中身がジュースでなかったことに大いに失望し、それと同時に、あんな酷い飲み物を呑んでいる父はどうかしているんじゃないか?と、ちょっと心配になったことを今でもよく憶えている。



          ◆



その異様な匂いの飲み物が、サントリー・オールドというウィスキーで、その丸い瓶の形から「ダルマ」という通称で呼ばれていることを知ったのは、それからずいぶん年月が過ぎて、大人に近づいてからだった。



          ◆



父とのことで、今でも後悔していることが、ひとつある。

それは、一度もサシ飲みをしなかったことだ。

家族一緒の食事ならば数えきれないほどしてきたけれど、父とのサシ飲みだけは、なぜか照れ臭くて、結局父が亡くなるまで一度も出来なかった。

仕事の話、家族の話、父の若い頃の話、母と出会った頃の話、ワタシと同い年の頃の話・・・酒を交えながら、そんな話を父の口から聞きたかった。

そんな思いが、歳を重ねるに連れて強くなってきている。
きっとこの思いは、ワタシがその生涯を終える時まで、ワタシの中に残り続けるのだろう。


          ◆


上述したとおり、ワタシは父がダルマを呑んでいる姿を眼にしたことがない。
でも、今ではその理由も自分なりに分かったような気がしている。

父は、たまに一人でダルマを呑んでいたのだろう。
家族が寝静まった夜とか、そんな時に。

その時、父がどんな表情で何を考えながらダルマを口にしていたのかは、もう知る由もない。
間違っても、コマーシャルの中の俳優のように絵になる佇まいではなかっただろう。
しかし、それでもおそらく父は、ワタシや母には見せたことがない表情で呑んでいたのではないか、と勝手に想像してしまう。

そして、その時のダルマの味が嬉しい味だったのか、それとも哀しい味だったのか・・・そういったことも、もう永遠に父から教えてもらうことはできない。


          ◆


テレビを眺めながらリビングで一人で呑んでいたが、おもむろにキッチンへ行き、グラスをもうひとつ持ってきた。
そして、ワタシのグラスと同じような薄い水割りを、もうひとつ作った。

父さん、水割り作ったよ。
ずいぶん遅くなったけど、ダルマでもないけれど、今からサシ飲みをしないか?



コメント (4)
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