僕は水の入った透明な容器にスポンジを入れて蓋を閉めた。
それを大事に抱えながらゆっくりと瓦礫の山を登っていった。
なんとか山を登り切り、駅まで辿り着いた。
僕は水の入った容器を抱えながらホームに入って電車を待っていた。
電車を待ちながら親友のエッセイストの言葉を思い出していた。
「バナナマンはおまえの7倍の時間を生きているんだ!」
僕はその言葉の意味が分からず、ずっと考えていた。
しかし答えが出ぬまま到着した電車に乗った。
アジア系の外国人が車内販売のワゴンを押して通路を歩いてきた。
片言の日本語で「現地の昔のお菓子です。如何ですか?」と云った。
僕は在り来たりのビスケットを50円で購入した。
電車は空港に向かって走りつづける。
空港に着くとそのまま韓国行きの飛行機に案内された。
僕はパスポートを持っていないことに気付いたが、
空港の職員は特に検査することもなく、そのまま飛行機に乗り込んだ。
飛行機はほぼ垂直に離陸し、数分で韓国に到着した。
韓国に到着すると入国審査が行われた。
僕は水の入った容器を差し出し、「パスポートを持っていません。」と申告した。
入国審査を行っていた韓国人は「それではこちらにどうぞ。」と云って、
会議室の様な部屋に案内された。
そこでテストが行われ、合格したら入国できるということになった。
しかしテストがハングル語なので何が書かれているのか分からない。
空港職員がテスト結果を見てザワザワとし始めた。
自動小銃を持った兵士が部屋に入ってきて、職員と何か話している。
僕は会議室のパイプ椅子に座りながら、親友のエッセイストの言葉を思い出していた。
「バナナマンはおまえの7倍の時間を生きているんだ!」
僕はお笑いコンビの話だと思っていたのだが、
実は果物のバナナのことではないかと思い始めていた。
バナナが腐るスピードが僕の寿命の7倍あるということではなかったのか。
僕は透明な容器をそっと開けてみた。
水はほとんど蒸発し、スポンジも乾燥していた。
※これは林檎乃麗が見た夢を文章化したものであり、
実際の鉄道、車内販売、航空機、海外の入国審査制度とは一切関係ありません。