大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・35『芋清の新メニュー』

2018-04-02 14:25:56 | 小説3

通学道中膝栗毛・35

『芋清の新メニュー        

 

 

 充実した夜を過ごせていないと、あくる日は朝から意気が上がらない。

 

 えと、夜と言っても何割の人たちが想像するようなことではありません、お片づけです

 仕事のスランプからお片づけハイになったお母さんに「少しは片づけたら~」と言われ、平和主義のわたしは上っ面だけどやったわけ。冬物衣料を袋に突っ込んで、ゲームのあれこれつっこんだ箱とコーナーに取り掛かったら収拾がつかなくなって(プレステ3のコントローラーが壊れたことがそもそもなんだけど)かえってグシャグシャ。で、グシャグシャになったとこをお母さんに怖い目で見られる。

 でもね、そのまま寝たんじゃ台無しなんで、冬物衣料を自転車のカゴにぶち込んでクリーニング屋さんを目指したわけです。

 そしたらクリーニング屋さんが休み~なのよね!

 わたしの平和主義は見事に裏切られたわけなんです! 

 で、朝の商店街をノタクラ歩いて駅を目指しております。商店街はゆる~く「く」の字になっていて、その「く」の字の折れ曲がったとこに差し掛かって芋清の前に軽トラックが停まっているのに出くわす。

 おいちゃんとおばちゃんがお芋の袋を搬入している。

 芋清と言えば焼き芋なのでサツマイモ……と思いきやジャガイモの袋が混じっているのに気が付く。

「やあ、シーちゃんお早う!」

「あ、それジャガイモですよね?」

「うん、実験的にジャガイモもやってみようと思ってね」

「あ、フライドポテト!?」

「いや、実はね……」

「それは出来てのお楽しみ、帰りにまた寄っとくれよ、サービスするから」

「あ、はい、じゃ、帰りに!」

 

 これだけのことで機嫌が戻っちゃうわたしってどうなんだろ?

 ま、期せずして験なおし。それからは足取りも軽く春の通学路を学校に向かった。

 

 ジャガイモの新メニューって? 放課後まで想像を巡らせて帰りの改札を出た。

 芋清の前は数人のお客さんが並んでいる。

 お店の雰囲気から混雑のピークを過ぎて、最後のお客さんの相手をしているんだろうと思う。

「おう、シーちゃん。バカ売れで、久々にアイドルタイムにしようと思ったとこだよ」

 おいちゃんがお芋を包み、おばちゃんがお勘定をしながらお芋をお客さんに……その包みから見えているのは焼き芋ではなかった!

「それって!?」

「そう、じゃがバター。ここにあるだけ売ったらおしまい」

「どうも、ありがとうございました!」

 最後のお客さんにお芋の袋を渡して、おいちゃんは店頭の札を準備中に替えた。

 

 形の崩れたのしか残ってないけど、ま、試供品だ。一つつまんでよ」

 お店に招じ入れられ、ホイルに包まれたじゃがバターを頂く。形は崩れているけど、コーンとバターの風味ですっごく美味しい!

「型崩れが二割ほど出るんで、まだまだ研究の余地ありなんだけど。いや、意外な人気で驚いちゃったよ!」

 おいちゃんが他人事のようにいう。

「繁盛するのはいいんだけど、今日は腰にきてしまってさ」

 笑顔なんだけど、おばちゃんの腰は辛そうだ。

 夏鈴と食べたらもっと美味しい……夏鈴を思い出すのは食べ物がキッカケになることが多い。

 

 プルルルル~プルルルル~とお店の電話が鳴った。

 

「はい、毎度ありがとうございます、芋清です」

 腰の痛いおばちゃんの頭越しに受話器を取ったおいちゃん。

「あ、はい、はい……少々おまちください」

 送話口を手で押さえ、おばちゃんを一瞥してからわたしを見るおいちゃん。

「シーちゃん、よかったら出前頼めないかな、ばあさんこのとおりだから」

「あんた、シーちゃんに頼むなんて……」

「重々承知なんだが、大久保さんだからなあ」

「わたし行くよ、おいちゃん」

「済まねえなあ……」

 

 わたしは岡持ち持って駅向こうの大久保さんを目指すことになった。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする