通学道中膝栗毛・37
『足止めを食う』
あーやっぱダメかあ。
残念そうな声が近づいてきて、あやうく気絶しそうなわたしは立直った。
文字通り立ち直ったわけで、放っておいたら首なしゴスロリ少女に覆いかぶさって意識を失っていただろう。
「あ、あ……」
「こっち側なら付くんだけどなあ……」
その子は少女の首をボディーに付け直すが、前後逆のでシュールすぎる。
「ま、しばらくこれで休んでなさい」
『はい、モナミ』
美少女は前後逆の首のまま壁際の椅子に掛けて大人しくなった。
その子、たぶん人間だと思うんだけど、栗色のセミロングに野球帽、目はクリクリしていて活発そうな女の子。ナリはTシャツにサロペット。これで「んちゃ」とか言ったらアラレちゃん。
「ごめんね、まだ試作品なもんで」
「え、あ、いや……」
余計なことを言ったらこの状況が悪化しそうなので、事務的なことだけ言って早々に退散しようと思うんだけど、言葉が出てこない。
「ありがとう芋清さん、下で明美から聞いたと思うんだけど、お代はお店の口座に振り込まれるから、中身はテーブルの上に置いてくれる?」
「あ、はい、毎度ありがとうございます……」
オタオタしながら岡持ちを開けるが、肝心のテーブルの上はコードや電子部品や何かのパーツみたいなものが一杯でスペースがない。
「あ、ごめんごめん」
アラレちゃんはテーブルの脇に段ボール箱を置くと、手でワイプするように机上のモロモロを箱の中に落下させた。
焼き芋の入ったパッケージを置くと「ありがとうございました」の一言だけ言ってドアに向かった。
あ、あれ?
ドアがロックされてしまってビクともしない。
「あ……ヤバいなあ、ルイザがインタフェイスになってるから、起動させなきゃドア開かない」
「え、あ、えと……」
「ルイザは、この試作品の事でね、この子が部屋のアレコレ管理してんの……でもチェックしてからでないと、今度は首が落ちるだけじゃ済まないかもしれない……そうだ、緊急用の縄梯子ならあるけど!」
「え、あ、いや」
制服のスカートで縄梯子を使う勇気はない。
「じゃ、ちょっと待ってくれる。クールダウンさせてモジュールチェックしたら開けたげるから、それまで座って待っててくれる? あ、そうだ、わたしも休憩しちゃえばいいんだ。そこ、掛けて、いまお茶淹れるから!」
「あ、お構いなく……」
「ま、いいからいいから」
わたしは妙なところで足止めを食うハメになってしまった……。