通学道中膝栗毛・46
モナミは毎晩やってきてはゲームの世界を広げていく。
わたしはゲーマーなんだろうけど、ライトがつく。
週に二三度コントローラーを握って、一年で数本のゲームしかしない。おもにRPGで、最初のコンフィグで設定はユルユルのイージーにしておく。パズルとかラビリンスとか、むろんゲームの中でのね、そこで躓いたら投げ出してしまう。
うーーーん、ゲームと言うよりはストーリーを追っていると言ったほうがいいのかもね。
ラノベ読んだりアニメや映画観るのと同じ。違いは、自分の意思とペースで進められること。
この頃は広大なオープンワールドのゲームが主流になってきて、ものによってはストーリーを追いかけないで自由気ままにマッタリ生活するようなゲームもある、オブリビオンとかグランドセフトオートとかウィッチャーとか。それはそれで面白いんだけど、やっぱりストーリーはあったほうがいい。わたしが求めているのは自分のペースで進められる映画とかアニメに近いのかもしれない。
モナミは違う。
ゲームと名前が付けばなんでもあり。
毎晩違うゲームを持ってきては披露する。
むろんメインはわたしのファイナルファンタジーなんだけど、一段落するとモナミの独演会になる。
「ここで捻りこみ……かける!」
バックを取られていたゼロ戦が縦ループの頂点で捻りこみの急降下を掛け、手品のようにグラマンのバックに着いた。
ダダダダダ ダダダダダ
二連射十発の射撃音がして、グラマンのキャノピーが粉砕される。
「グラマンの防弾版は7・7ミリじゃ抜けないんだけどね、パイロットはパニックになって機動が甘く……なったところを20ミリ!」
ドドド ドドド
あっという間にエンジンを撃ち抜かれてグラマンは撃墜される。
「これが坂井三郎の撃墜法! 滞空時間さえ確保出来たら五機くらいは墜とせるんだよ」
コングラッチレーション! 撃墜帝王の称号を獲得しました!!
画面いっぱいに花火やらキンキラのエフェクトが満ちる。
「すごい、三百機も撃墜したんだ!」
「な~に、軽いもんよ~♪」
ほかにも『電車でゴー』『グランツーリスモ』『パイロットになろう』『A列車で行こう』などなどシミレーションものを見せてくれた。ほかにもゾンビ系やら無双もの、乙女ゲーまで見せてくれる。
わたしにもコントローラーを握らせるが無理強いはしない。モナミのペースでやっているようだけども、わたしのモチベーションに気を配ってくれているのが分かる。
モナミはイイコだし、モナミの後ろでニコニコとアケミさんが微笑んでいるのもいい。
でも、ときどき思うんだ。モナミ、学校とかはどうしてるんだろう……。
でも、それはモナミから言い出さない限り、わたしから詮索していいようなもんじゃない。
モナミは気を遣いながらも子供のように楽しんでいる、わたしも程よく楽しめている。むろんテスト前とかになったら考えなきゃならないけど、今はこれでいい。
「ちょ、オシッコ!」
ロボゲーで瞬殺の新記録を叩きだすや、モナミは階下のトイレに直行した。
「栞さま、ひとつお願いがあるんですが……」
アケミさんがニコニコ笑顔のまま、真剣なまなざしを向けてきた……